昇竜そのもの
五龍のフジ
 5月下旬、「昇竜」そのものという「五竜のフジ」が地元紙岩手日報に紹介され、その記事を頼りに訪ねてみました。このフジは滝沢村湯舟沢の角掛神社境内にありますが、現地では案内板などによってその所在地の案内は行き届いており感心しました。各地の天然記念物の案内もこうあってほしいものです。
 現地で見たものは掲載した写真の通り。5本のフジがスギやイタヤカエデなどの幹に巻き付き、絡み付いて、言われる通り昇竜そのもの。でも花の時期なのに、見上げても花が目に入らないのは残念。まだ早かったか、それとももう終わってしまったのか……。
 新緑の燃え立つ頃に、長い花房を垂らして、紫に競うフジの姿は、いかにも日本的で気品を漂わせます。そのフジが、一面ではこんなすさまじい姿を見せるのですねえ。
 フジの花言葉は「歓迎」が一般的ですが、「恋に酔う」、「あなたに夢中、至福の時」というのもあるそうです。このように巻き付き、しがみついている姿から、そんなことを連想するのでしょうか。 
   五龍のフジ  滝沢村指定の天然記念物
 所在地 滝沢村湯舟沢34 
それにしてもすさまじい光景ですねえ
                           滝沢村保存指定樹木

               1.種 別     天然記念物 植物 老樹
                 2.名 称     五竜のフジ(マメ科 ヤマフジ)
                 3.大きさ    1 樹高 16m  幹周囲 1,7m
                           2  〃  18m    〃  1,4m
                           3  〃  19m    〃  1,4m
                           4  〃  16m    〃  1,4m
                           5  〃  17m    〃  1,4m
                 4.名称の由来  推定樹齢200〜300年のフジの老大樹が5本も
                            そろって自然のままにはえているのは県下でも
                            珍しく、その姿はあたかも5頭の竜が大空に舞い
                            上がる姿を思わせるところから5竜のフジと命名
                            された。
                                          滝沢村


            大森の大藤      所在地 岩手町一方井
         五龍のフジでは花を見ることができませんでしたので、その足で岩手町一方井
           まで出かけ、地元の人たちに「大森の大藤」と呼ばれているフジを見てきました。
            満開で歓迎してくれました。このフジは天然記念物には指定されてはいません
           が、推定樹齢は200年以上ということで、なかなか見応えがあります。
            風情あふれる花の姿で親しまれているフジは、このように高木に巻きついて、
           その幹を締め付け、光を遮り、時には高木を枯らしてしまうというすさまじい一面
           をもっています。ここではスギとマツの大木に絡みつき、高さは22mもあるという
           ことです。
       フジはマメ科植物で、マメ科に多く見られる蝶の形をした可憐な小花が集まり、
        美しい花房をなしています。花房は下垂し20〜90cmになるということです。花は
       花房の基部から先端に向って順に咲きます。
藤島のフジ 国指定の天然記念物
所在地 一戸町小鳥谷仁昌寺 
     フジの天然記念物といえば、日本一のフジとして一戸町の「藤島のフジ」が有名です。
     何十年ぶりかで訪れてみました。日本一は過去のこと、命あるものの宿命。いまはもう
     すっかり老残をさらすのみです。
                       国指定天然記念物   藤島のフジ
                                 指定年月日 昭和13年12月14日
                                 所 在 地  一戸町小鳥谷字仁昌寺
                                 所 有 者  一戸町
           このフジは、別名ノダフジとも呼ばれ、春から初夏にかけて紫色の花をつけます。もともと
          このフジはすぐ隣のカツラの樹にまつわりついていましたが、その重みでカツラの枝が折れ
          てしまったので、今は鉄骨のやぐらと支柱によって支えています。樹齢は数百年、高さは
          20mもあり、日本一大きいフジで知られています。天然記念物に指定された昭和13年には
          根回りが3.3mありましたが、その後老木のため今のような状態になっています。
           この地は、古くから仁昌寺の境内に相当し、天正19年(1591年)九戸城主九戸政実がおこ
          した闘いの際には、豊臣秀吉軍の蒲生氏郷が姉帯城攻略のため陣を張った場所だとも伝え
          られています。当時フジのあるところは周囲三方に堀が巡り、あたかも島のように見えたこと
          から藤島の名がおこったようです。
           今は、この堀もなくなっていますが、フジの根元近くに弁財天を祀る祠があって、周辺の人
          達の信仰の場となっています。
                             平成13年3月20日     一戸町教育委員会
観音堂の藤 一戸町指定の天然記念物
所在地 一戸町小鳥谷仁昌寺
      案内看板には、このフジはすぐ近くにある「藤島のフジ」の種子から発芽・生育したフジと
       考えられ、里にあるフジとしては珍しい大木になっているとあります。南側に1本、北側に1本
       と、2本あります。
            境内は巨木・老木に囲まれて、厳かな雰囲気が漂います
                「フジ」についての豆知識

     野山で見かけるフジは日本の固有種で、わが国では非常に古くから親しまれています。
      林の縁などの明るい樹林内で多く見かけます。花の色は普通薄紫色ですが、品種によっ
      ては白、ピンク、濃紫色があり、それぞれ雰囲気がちがう美しさがあります。万葉集には
      フジに関する歌が28首詠まれているそうで、「源氏物語」「枕草子」「伊勢物語」など多くの
      古典にも登場しています。優美に咲き誇るフジは文学や美術など、日本文化を豊かに彩
      ってきました。
       フジは有用樹木としても重要で、昔はフジの皮を灰と煮てさらし、繊維をとって紡いで織
      られた「藤布」が多くつくられ、江戸時代まで仕事着として利用されてきました。また近年ま
      で畳の縁はフジの糸で作ったものが使われ、細いつるはひもや網に、またかごを編む材料
      にも使われてきました。柔らかいつるの先は茹でて和え物に、ビタミンを多く含んでいる
      花は和え物やてんぷらにして賞味できます。
       フジは落葉性のつる植物で、つる性木本(もくほん)を代表するところから、つる性樹木の
      ことを藤本(とうほん)性ともいいます。底知れぬ強い生命力が寿がれ、人名や地名に多く
      「藤」の字が当てられたり家紋にも多用されています。

     五龍のフジは「ヤマフジ」ということですが、ヤマフジは別名ノフジともいわれ、フジとよく
      似ていますが、花房(花序)はフジより短く、いっぺんに咲いてしまうのが特徴です。また藤
      島のフジの解説のところで出ていましたが、フジは別名ノダフジとも呼ばれています。昔、
      摂津国野田(現在の大阪市西成区)の藤之宮にフジの名所があったことに因んでいます。
       フジは鉢植え、棚仕立て、盆栽、庭木とさまざまな観賞方法で親しまれていますが、フジ
      の花を贈る時は、花言葉のことも頭においてからの方がいいようですね。花言葉を知って
      いるもらい手がまごつかないようにね……。ふと見かけた本に、フジの花を贈る次のような
      アイデアがありましたので紹介します。

      ○小さめの鉢植えを、紫のペーパーでそっと包む。
        ○庭にフジが咲いているなら、男性にはホワイトリカーと氷砂糖に漬けた「ふじの花酒」
         のプレゼントがいいかも……。