迫力ある重厚な根幹 白山杉  スギは一属一種の日本固有の樹種で、日本ではいろいろな形で日々
の生活と結びついています。サクラと同様、日本文化を象徴する樹木と
言っていいでしょう。広く造林・育林されているので、岩手県内ではどこ
でも目にすることができますが、各地の神社・仏閣などでは「御神木」な
どと称される巨木を見ることができます。それらは天然記念物に指定さ
れているものも多く、陸前高田市常膳寺の姥杉は県の天然記念物に指
定されており、その他市町村の天然記念物に指定されているスギも多く
あります。その数はざっと数えただけでも43件に上ります。
 名峰早池峰山の周辺には多くの巨樹が見られますが、ここでもスギの
巨木を目にすることができます。早池峰山から西側に連なる山並みの中
にある笠森山。その笠森山の南麓にある久出内(くでない)集落には、「白
山杉」「山祇桂」「才の神のサワラ」などの巨木があり、いずれも花巻市が
指定する天然記念物になっています。とりわけ「白山杉」は迫力があり、
見応えがあります。太さといい威容といい堂々たるもので、一見に値しま
す。
 このスギは岩手県のスギの巨木を代表すると言っていいでしょう。
             白山杉   花巻市指定の天然記念物
 所在地 花巻市大迫町内川目字久出内
       大迫町から早池峰山に向って車を走らせていくと、やがて右手に早池峰湖が見え、
        程なくしてダム公園のパーキングエリアを通り過ぎます。そこから左に分岐する道路
        があり、その道路を進んでいくと、久出内川の渓流沿いに広がる久出内の里があり
        ます。
         人の気配をほとんど感じない集落に入っていくと、古い鳥居があり、その後方の山の
        中腹に、それらしいスギの木立が見えます。「これを登っていくのだな」と独り合点して
        登って行くと、舗装された農道が横切っていました。集落を囲むように、山側に道路が整
        備されているのです。白山杉の間近まで、車で行けるようになっているのでした。後で気
        が付いたのですが、集落の入り口にその案内があって、左側の道路をたどると「白山杉」
        に向うのでした。その道路は「白山杉」を避けるようにカーブしておりますが、調べてみて
        その理由がわかりました。
         この道路は「中山間地域活性化総合整備事業」のいっかんとして、1995年頃に整備さ
        れたもので、当初は白山杉の真下を通す予定だったようです。白山杉危うしを知った人
        たちが関係機関に陳情などして、その周辺を迂回させたという経緯がありました。白山杉
        も識見ある人たちのこうした働きかけによって難を逃れたのでした。
         それにしても筋骨隆々とした白山杉。その前に立つと、その威容さに感動してうなってし
        まいます。このような屈曲して豪快・豪壮なスギは日本海側に多いそうですが、奥まった
        この北上高地の一角は日本海側の気象に匹敵する荒々しさがあるという証しかもしれま
        せん。
     集落の中ほどにある鳥居。後方は白山杉。
    かつてはここから登ったようですが、今は
    途中に舗装道路が横切っています。白山杉
    へはその道路を使い、ここを登っていく人は
    いないようです。
   この道路は当初は真っ直ぐ白山杉の直下を通る
  計画でしたが、写真に見るように、右に迂回していま
  す。スギの右手の茂みは同じく天然記念物に指定さ
  れている「山祇桂」です。2つの天然記念物が隣り合
  わせになっいます。
質素な社があって、その奥に白山杉は構えています。社が白山神社で、そのご神木というわけです
太さ、大きさに驚かされます
木の根元にはわき水が流れています。冷たくおいしい水です
          (案内板より)  大迫町指定天然記念物   白山杉(はくさんすぎ) 

             指定年月日  平成元年6月16日
             樹    種  スギ(スギ科)
             幹 周 り   約11メートル50センチ以上

          樹    高  約50メートル
          推定樹齢    約900年以上
          選定の事由   白山杉は、環境庁が昭和63年から平成元年にかけて実施した、
                    「全国巨樹・巨木林調査」(緑の国勢調査)において、県内最大の
                    巨木杉であることが証明された。
                    この杉には「かさっこの神様」が宿る伝説があり、かさっこ(疱瘡)
                    ができたときには、ゆりかごをつくって奉納すると治るといわれて
                    いた。また、殿様と醜いお姫さまにまつわる悲しい伝説なども伝
                    わる地域のシンボル的名木となっている。

                                       大迫町教育委員会
         狐穴稲荷神社の杉        所在地 花巻市大迫町亀ヶ森 
         天然記念物に指定はされていませんが、大迫町内の狐穴稲荷神社にスギの巨木があるという
        ので訪ねてみました。国道396号線沿いにあり、紫波町との境を過ぎて間もなくのところにありま
        すが、白山杉を見た後ではその感動は薄れてしまいます。しかし枝を広げて立つ白山杉とはち
        がって、1本筋を通すように天に向って伸びていく幹には、これまた圧倒されるものがあります。
                    日本文化とスギ

       スギは日本固有の樹種ですが、人里近くで普通見られるスギ林はほとんどが植林された
        人工林です。日本の国土の約65%は森林で、その内の44%はスギ林といいますから、日本
        の国土の約11%は植栽されたスギで被われていることになります。しかし天然スギは全国
        各地に点々と生き残っているに過ぎません。
         たしかに現在ではスギの天然林は限られた地域にしか見ることはできませんが、植生変遷
        を解明する花粉分析法によると、堆積物中の化石花粉の種類や量によって、スギ林は長期
        間にわたって日本列島に広がっていたことが明らかになっています。
         スギは大昔から、日本人の生活と深く結びついてきた樹種でした。すでに縄文時代早期か
        ら日本人とスギとの付合いがあったことが各種遺跡調査などで判明しており、建築材、樽、
        桶など、いろいろなところでスギが利用されてきたことは周知の通りです。酒造店では新酒の
        出回った目印に、スギの葉を球状にまとめたもの(杉玉)を店先につるしますが、かつて酒樽
        はスギ材が多く使われました。
         戦後の復興時、木目が美しく香りのいい秋田スギ材を挽く製材所の町で少年時代を過ごし
        た者の1人として、スギへの愛着は非常に強いものがあります。考えてみれば、私たち日本
        人にとってスギは太古からの付合いなわけで、スギへの愛着は遺伝子として脈々と受け継
        がれているのかもしれません。
         私たちの先人たちは戦後植林活動を熱心に行ってきました。その恩恵として、いまでは国内
        スギ材の資源は恵まれた環境にあります。現在建築材の多くは輸入材に頼っていますが、
        先人たちの尊い努力をむだにせず、その資源を宝物として、ぜひ有効に活用していきたいも
        のです。