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手つかずのまま残っている神聖な神社林
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岩手県ではアカマツが「県の木」として指定され、「なんぶあかまつ」として親しまれています。そのアカマツにはスギのように直幹型のもの、また枝がしだれ型になっているもの、はては樹形が傘型のもの、箒型のものなど各種あって、それらの中で天然記念物に指定されているものも多くあります。
直幹型の代表的名木としては大槌町浪板の「宮洞の松」「釜石市箱崎神社のアカマツ」、岩泉町江川赤比羅神社の「赤松」などが挙げられます。いずれも地元の市や町の指定する天然記念物になっています。しだれ型では「玉山のシダレアカマツ」が代表的で、その他軽米町の「米田のシダレ赤松」などがあります。傘型では一関市川崎町の「薄衣の笠マツ」、箒型では九戸村の「千本松」、軽米町の「山田の千本松」などが代表的です。これらはいずれも天然記念物に指定されており、このサイトでも取り上げています。
今回は釜石市が天然記念物に指定している「箱崎神社境内林」を取り上げました。数ある境内の巨木の筆頭はアカマツで、見事なアカマツが数本健在です。それにちなんで、天然記念物に指定されている岩手県内のいくつかのアカマツを合わせて紹介いたします。 |
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(釜石市指定の天然記念物)
所在地 釜石市箱崎町第7地割52番地 |
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箱崎神社の社叢とされる境内の林は、長きにわたって手を加えることのない環境が守られ、
樹齢400年と推定されるアカマツを筆頭に、アカマツ、スギ、カツラ、ケヤキ、クロベなど幹回
り3.5m以上の樹木が17本もあったとされています。そのような貴重な環境を末永く守ってい
こうと、釜石市は2011年2月24日付をもって「箱崎神社境内林」として天然記念物として指定
しました。
その指定を受けた2週間後の3月11日に、東日本大震災の大津波が現地を襲っています。
この境内のすぐ下が海岸線で、津波はここも直撃しています。箱崎町一帯、すぐ近くの鵜住
居町一帯は壊滅的被害を受けました。また町ごと壊滅被害を受けた大槌町も同じ大槌湾内
にあります。幸いなことに境内林は少し高いところにあって、辛うじてその被害を免れました。
以下の写真は被災後5年経ってからの写真で(2016年10月)、被災前の写真がないので、
比較できないのが残念です。被災前はもっと下の方にも樹木が広がり、豊かな姿をしていた
ものと思われます。それでも、上の方は神聖な社叢林として、手つかずのままの姿を残して
います。大津波の洗礼も受けた貴重な姿です。 |
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津波はどの高さまで襲ったのでしょうか。下の方に樹木はありません。 |
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威厳をもって構えていた石材の鳥居も倒れてしまったようです。 |
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幸い上の方の巨木群は無事でした。 |
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スギの巨木群は辛うじて助かったといった感じです。 |
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見事なアカマツやスギの巨木です。計測数値は出ていませんが、全国的にも有数なものでしょう。 |
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写真の左側が道路ですぐ海岸ですが、写真中央のマツの巨木近くまで津波が押し寄せた
のではないでしょうか。その下の巨木は枯死し、樹木もなくなっています。 |
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今は何事もなかったかのように、穏やかな大槌湾です。(右の森が箱崎神社境内林) |
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(久慈市指定の天然記念物)
所在地 久慈市小久慈町1-4-1稲荷神社 |
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探し当てるのに苦労しましたが、採石・砕石工事現場のすぐ近くにありました。
周りに樹木が多いためよくわかりませんでしたが、周囲を見渡せる高台に鎮座
しています。枝張りが旺盛で、高台に立つその姿は、周りを睥睨するかのよう
です。 |
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(久慈市指定の天然記念物)
所在地 久慈市小久慈町66-20-2 蒼前神社 |
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幹は傾斜しておりますが、直幹型の典型のような樹形をしています。久慈市におけるアカマツ
としては代表的巨木とされています。 |
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(葛巻町指定の天然記念物)
所在地 葛巻町江刈10-22 |
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国道沿いにあり、所在地はすぐわかりました。こういう場所にあると訪ねる方は助かります。
文字通り一本松なので、いろいろな角度から撮影できます。 |
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(葛巻町指定の天然記念物)
所在地 葛巻町江刈12-23(白山神社) |
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天然記念物に指定されたのは1975年(昭和50年)9月になっており、それから40年余経って
います。1本は枯損したようで、現在は二本松になっています。案内板にあるように、確かに枝
は枝垂れて傘状になっています。 |
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(推定樹齢は450年余) |
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「マツ枯れ」の被害について
近年アカマツの人工林が減少したのは需要減だけが原因ではなく、マツ枯れと呼ばれるマツ材
線虫病が猛威をふるったためとも言われています。このマツ枯れは、マツノマダラカミキリが運ぶ
マツノザイセンチュウが材を食い荒らし、水が吸えなくなってマツが枯死するというものです。この
マツノザイセンチュウは北米からやってきましたが、北米のマツではあまり被害が出ず、日本の
マツは甚大な被害を受けています。寄生する宿主を殺してしまえば自分も共倒れになるので、
自然界ではある程度のところでバランスが保たれ、北米では穏やかな関係が作られているのに、
日本のマツとはうまくいかないようで、今なお増え続けています。
日本では北海道以外の全国各地に広がり、甚大な被害を及ぼしています。その中には「名木」
と言われるマツも多く含まれ、惜しまれて処分されたものも多いようです。岩手県においては
1979年(昭和54年)一関市で確認されたのが初めてで、現在では内陸部では盛岡市、滝沢村、
雫石町辺りまで、沿岸部では大船渡市から宮古市の方まで広がりつつあります。
このように被害が広がったのは、気温上昇によって媒介昆虫のマツノマダラノカミキリの生息
域が拡大し活発化したことが挙げられています(暖かいところが好き)。また間伐などの林の手
入れが不足して、マツノマダラノカミキリが繁殖しやすい環境となっていることも挙げられていま
す(枯れたマツが多い程増えていく)。また人間が運んだ木材を介して広がることも指摘されて
います。
行政も必死にその拡大防止に努めているようですが、なかなか歯止めはかからないようです。
やはり林業を重視して、林に山に、もっと人手をかけていくことが求められているようです。岩手
県の「県の木」アカマツが「マツ枯れ」の被害に遭って処分されていくことには心が痛みます。
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