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丸みを帯びたきれいな緑色の葉を付けるカツラの木をよく見かけ
ます。そのカツラは恐竜の時代からほとんど姿を変えずに生き延
びてきた世界でも珍しい樹種とされています。そんなカツラが日本
の固有種であるということには親しみがわきますが、その変種と
もみられるシダレカツラが早池峰山の山中で発見されたのが全国
でも唯一のものとされるに至っては、岩手に住むものにとっては、
その親しみも倍加するというものです。
そのカツラは幹が朽ちても萌芽が旺盛で、次々と出て林立し、そ
の代替わりによって長い寿命を保っています。そうした林立した各
地のカツラの中には「千本桂」」として天然記念物に指定されている
ものも多くあり、このサイトでも「古屋敷の千本カツラ(軽米町)」
のページで一部を紹介してきました。
早池峰山の里大迫町内川目にもそうした千本カツラがあるという
ので訪ねてみました。立石地区にある「稲荷神社の千本桂」と久出
内地区の「山祇桂」です。
どちらもいろいろな表情を見せてくれました。春の芽吹き、そして
新緑、夏の深緑、秋の黄葉、落葉……そんな姿を見るといっそう
親しみがわきます。その表情の一端を紹介いたします。 |
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(花巻市指定の天然記念物)
所在地 花巻市大迫町内川目立石 |
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岳川(稗貫川)に沿って延びる県道43号線を遡って行くと、右手に内川目小学校があり、
その川向いに林立している姿を確認することができます。稲荷神社のシンボルにもなっ
ていて、地元の人たちの信仰の対象になってきたことを窺い知ることができます。 |
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赤く染まる春一番のカツラ
葉が展開する前に開花し、枝全体が赤く染まったようになっています。 |
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カツラは雌雄別株で、この花は雄花なのでこの木は雄株のようです。花は対生に
葉腋1個付いています。花は花弁も萼もない原始的な形をしています。 |
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葉が一斉に芽吹き始めました |
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美しい新緑に包まれました |
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葉は両面とも無毛で整ったきれいな形をしています。裏面はやや粉白色を帯びています。
病害虫には強いようで、その害を受けた姿はほとんど目にしたことがありません。 |
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6月には深緑の欝蒼とした姿になりました |
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緑も薄れ、秋の気配を見せています |
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10月下旬 一部の葉を残して落葉してしまいました |
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カツラのこうようは黄葉の方です |
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「千本桂」にまつわる説話 …… 出所:「大迫町史・民俗資料編」
中央の株間には御室がある。この御室には今も尚祭神稲蒼魂命の御使狐が棲息して
いるので、時々夜吼を聞くことがある。前を岳川(稗貫川)が流れているが、その西側に
て夜吼をすれば東側の村に不祥事があり、東側で夜吼をすれば西側の村落に不祥事
があると伝えられている。近郷近辺の信仰はすこぶる篤いのである。また昔からこの桂
を折り取れば祟りありと言い伝えられているから、誰も折り取るものはないから、益々繁
殖して今日の株数になっているのであろう。大正11年名木調査の際、同村白山杉と共に
名木台帳に登録されている。
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国指定の特別天然記念物
所在地 岩手県下一円 |
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稲荷神社の千本桂の観察が終わって久出内の山祇桂向かっていくと、山祇桂の
ちょっと手前の道路わきでニホンカモシカに出会いました。「ワシは国の特別天然記
念物に指定されておる。ワシも載っけてくれや」と、じっとこちらを見つめているでは
ありませんか。「わかった。じっとしてろよ」とカメラを取り出してパチリ。
その約束通り、ここで紹介します。白っぽいフサフサしたきれいな毛並みが印象的
です。なかなか気品に満ちた貫禄で、高齢のカモシカの感じを受けます。 |
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カモシカと言えば山歩きをしている時に何回か出会っており、安家森に登った時
にも出会っています。この時は向こうさんは悠然とこちらの目の前を横切り、その
後ピタリと止まり、こちらをじっと見つめていました。こちらも動きを止めて、真似し
てじっと見つめ返しました。時が数分止まったような気がしましたが(実際は1分程
度だったかもしれません)、やがて「あばよ」と去っていきました。こちらのカモシカ
は若いようです。カモシカが時にこうして動きを止めて、じっと一点を見つめるのは
習性のようです。これまで出会ったカモシカに共通しています。 |
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カモシカは日本固有種で、ニホンカモシカとも言われています。本州、四国、九州に
分布していますが、個体の数では圧倒的に東日本に多いようです。シカではなくウシ科
の動物で、反芻性の草食動物です。事典などでは岩場や急斜面のある森林を好んで
生息すると解説されています。実際に見かけたのは灰白色と濃灰色の毛色をしていま
したが、橙黄色もあるそうで、個体差はいろいろのようです。1934年に国の天然記念物
に指定され、1955年には特別天然記念物に格上げされています。乱獲によって個体数
が減ったことに起因しています。 |
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(花巻市指定の天然記念物)
所在地 花巻市大迫町内川目久出内 |
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山祇(やまずみ)桂は「白山杉(花巻市)」のページで紹介した「白山杉」のすぐ
近くにあるカツラの巨木です。樹勢は旺盛で、特に赤く色づく春の芽吹きが印象
的です。秋も美しい黄葉を見せてくれました。 |
こちらも春一番は赤く染まっています |
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こちらは花と葉が同じ時期に出ていますね。こちらは雌花ですから、この木は雌木でしょう。 |
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新緑の美しさに心洗われる思いがします |
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深緑の旺盛な樹勢を見せています |
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落葉を前に黄葉の姿も観察できました |
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解説版にある「馬っこ繋ぎ」ワラ馬について |
大迫町内川目久出内では毎年6月15日に馬っこつなぎ」と呼ばれる伝統行事が行われ
ている。二体で一組のワラで出来た馬を神社や湧き水、田などに置く。ワラ馬の口には
米の粉でつくるしとぎを葛の葉に入れたものを挟む。ワラ馬を奉納することで五穀豊穣や
家内安全を祈願する。(花巻物語事典より) |
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山祇桂のある久出内から早池峰山に向うと、程なくして早池峰山登山の基地となる岳集落に
着きます。ここから早池峰連峰の西端となる鶏頭山がよく見えますが、その中腹に「七折の滝」
と呼ばれる名勝の奇瀑があります。滝口近くに突起する岩があり、その岩に激下した水が上の
写真のように真横に飛び跳ね、さらに岩腹を突くようにしながら数段に折れて滝つぼに落ち込ん
でいます。他では目にすることがない珍しい光景です。もっと水量があればさぞかし圧巻だった
ことでしょう。でも水量の関係で飛び跳ねる光景を見ることができないこともあるそうですから、
これで満足すべきかもしれません。 |
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花巻市大迫町内川目地区の文化財について
花巻市大迫町の大迫総合支所のある中心部から早池峰山に至る一帯は内川目といわれていますが、
かつては内川目村という一つの村でした。ここには数々の優れた文化財が指定されており、地元の
人たちの熱心な継承・保存・保護活動が続けられています。いずれも全国に誇る香り高い文化財で、
当地区はまさに地域がそっくり文化財という感があります。
地元の人たちの継承・保存・保護の努力を、全県民、全国民がしっかり支えていくようにしていき
たいものです。
指定されている文化財には次のようなものがあります。
<国指定 民俗文化財>
・無形民俗文化財……民俗芸能 「早池峰神楽」(岳神楽・大償神楽)
<国指定 特別天然記念物>
「早池峰山及び薬師岳の高山帯・森林植物群落」
<岩手県指定 有形文化財>
・建物……「早池峰神社本殿」1棟
<花巻市指定 ・有形文化財……彫刻 「岳妙泉寺四天王立像」
「岳妙泉延命地蔵尊半跏像」
「桂林寺十一面観音半跏像」
「早池峰神社文禄四年銘獅子頭」
「新山堂早池峰三尊像」
・無形民俗文化財……民俗芸能
「中乙念仏踊」
「竪沢鹿踊」
「八木巻神楽」
「旭の又神楽」
「合石神楽」
「岩脇さんさ踊り」
・天然記念物……植物
「稲荷神社の千本桂」
「上住郷のカヤの木」
「白山杉」
「山祇桂」
「才の神のサワラ」
「早池峰神楽」は国指定無形民俗文化財・民俗芸能の指定第一号です。
国指定の特別天然記念物 「早池峰山及び薬師岳の高山帯・森林植物群落」は、本サイトの
「早池峰・高山植物」のページで紹介しています。
また天然記念物の「白山杉」については同じく本サイトの「白山杉(花巻市)」のページで、
「才の神のサワラ」については「才の神のサワラ(花巻市)」のページで紹介しています。
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