郷土いわては自然の博物館        
    郷土いわては広い面積を有し、北海道に次いで、県としては日本一広い県です。単に広い
   だけではなく、実に変化に富んでいます。
    西縁は秋田県との境をなしていますが、そこは日本列島の背骨部分にあたる奥羽山脈で、
   八幡平や栗駒山などの一帯は、まさに火山博物館の様相を呈しています。胆沢平野の奥に
   鎮座する焼石岳連峰も古い火山です。また、和賀岳や真昼岳のような、地殻の活動によって
   できた山々もみられます。それらの山々の連なりは真昼山地と呼ばれ、その北部の和賀岳一
   帯は和賀山塊とも呼ばれています。そこでは火山には見られない険しい独特の山容を見せて
   います。
    県の中央部は北上高地が南北に広がり、県土の3分の2を占めています。ここは古い地質か
   ら成る準平原化した山々が連なっていますが、中央部付近や南東部にはかなり険しい山も見
   られます。これらの山は古い時代の浸食作用から残された硬い部分で、姫神山、早池峰山、
   五葉山、室根山のような高い山も見られます。その多くは花崗岩でできていますが、早池峰山
   は標高が高いとともに、地質的に蛇紋岩でできているという特徴があり、日本ではここだけし
   か見られないという珍しい固有の植物分布も見られます。また北上高地は日本有数の石灰岩
   地帯でもあり、そういう石灰岩地帯には安家洞や龍泉洞のような、鍾乳洞も多く見られます。
    奥羽山脈と北上高地の2つの山地の間を北上川が南流し、郷土の穀倉地帯となっています。
   この流域一帯は古い時代から、人々の生活・文化の中心的な舞台ともなったところで、侵出し
   て来る中央権力の軍勢を迎え撃ち、たたかった舞台でもありました。平泉の文化も、ここを中
   心にして栄えました。地域の人々の郷土愛と信仰は厚く、早池峰神楽の伝承でみられるよう
   に、豊かな民俗文化を継承しています。各地の神社仏閣境内などには、神木と祀る巨木の
   類も多く残されています。
    東縁は複雑な地形をみせる海岸で、宮古から南はいわゆるリアス式海岸と呼ばれる沈降海
   岸であるのに対して、宮古からの北の海岸は海岸段丘と切り立った海食崖を伴う隆起海岸と
   なっています。宮古を境に、北と南ではちがった海岸地形が見られ、独特の自然景観が見られ
   ます。日本は海岸線の長さでは世界でも有数な国ですが、その海岸線の多くが人工的に手が
   加えられており、原始のままの姿を残す三陸海岸は、いまでは貴重な存在となっています。
    こうした火山や温泉、古い地質をもった山々や高原、穀倉地帯となって広がる平野、入り
   組んだ地形を見せる海岸線など、複雑な変化に富んだ郷土いわての自然は、まさに自然の
   博物館ともいえるでしょう。いわての自然界には、他に例をみない植物の分布や、独特の地
   質・鉱物、珍しい自然景観などが多く見られます。それら希少価値の高いものや、学術的に
   価値の高いものについては、名勝や天然記念物として、保護、保存が図られています。それ
   には国が指定するもの、岩手県が指定するもの、市町村が指定するものとありますが、その
   数は「岩手県内の天然記念物一覧」に見るように相当な数に上り、全国的にみても多いよう
   です。郷土いわてが、豊かな自然に恵まれていることの証しでもあります。
    自然は人間のみならず、あらゆる生物をはぐくむ母体です。郷土いわての自然のすばらし
   さに誇りをもち、この自然景観を、そしてまた多くの自然遺産・文化遺産を、末永く後世に伝
   えていきたいものです。
        「自然は祖先からの贈りもの、子孫からの預かりもの」なのですから。
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