珍しいクリの変種
    カズグリ自生地
 秋のクリは年配者にとって季節感のあるなつかしい食べもの
ですが、いまでは食べる人は少なくなったようです。
 そのクリ。岩手県内では天然記念物に指定されているクリの
木があります。突然変異によって珍しい実を着ける「カズグリ」。
枝葉が枝垂れる「しだれ栗」。そしてかつて日本一を誇ったクリ
の老木です。
 それらを訊ねてみました。
カズグリ自生地   (国指定の天然記念物
 所在地 花巻市東和町上小山田(稲荷神社境内)
        花巻市東和町石鳩岡にあるカズグリは、全国でもここでしか見られない珍しい珍木です。
         写真のように普段は見ることのない、連なったイガができるという不思議なクリの木です。
         野山のシバグリが突然変異したものと言いますが、言われても見るまでは信用できない形
         をしています。天然記念物に指定された初代のものは枯死し、今あるのは二代目ということ
         ですが、昭和17年(1942年)に接木に成功したのが幸いでした。
          害虫などの被害で絶滅の危機に見舞われたそうですが、今日この姿があるのは、保存に
         努めた関係者の努力の賜物です。
     初代のものは枯れた後祀られ、鳥居には「数栗稲荷神社」の札がつけられています。
               「カズグリ」は「数栗」からきているのですね。
               小山田のカズクリ自生地(国指定天然記念物)      
                      所在地 岩手県和賀郡東和町石鳩岡地内
                            所有者 東和町
                            管理者 一ノ倉正志
                            指定年月日 昭和2年4月8日

       ここに自生するクリは八房栗ともよばれる。本来クリは雌雄同株で、普通のものは花序の
      基部に1〜2の雌花を着け、他はすべて雄花を着生する。カズクリの場合は、花序に着生す
      る花はすべて雌花で、雄花は全く生じないという着花習性の異常形で、突然変異の所産で
      ある。
       結実は付近に存在する普通の栗の花粉の伝達によると考えられ、付近の栗の木の保存も
      必要である。結実期になると大小無数のイガを長く連なって15〜24センチになり、穂状また
      は哺乳類の尾のように見える。イガのうち完全な果実となるのは基部のものだけで、中央部
      から先端にかけてのイガは単に棘皮のみである。
       基部の果実は1個のイガの中に3〜4個の種子を内蔵し、概して小形である。
       指定樹は既に枯死し現在は接木により繁殖された成木7本あるのみである。
       日本の中では長野県小県郡和田峠観音沢にあったが、大正の頃枯死し、この地域のみ現
      有が確認されている珍しい寄木である。
    
   江刺家のしだれ栗  (九戸村指定の天然記念物)
 所在地 九戸村江刺家
         近づいてみますと、それぼど極端ではありませんが、なるほど枝葉が枝垂れています。
         村の資料によると学術上珍奇な変種とされ、天然記念物に指定されています。昔から
         折爪岳の麓に1本生えていたもので、この地に株分けして植えたものということです。
        しだれ栗は岩手県内では一関市でも天然記念物に指定されたものがあり(花泉町)、
         全国各地に分散しているようです。長野県や岐阜県には国の天然記念物に指定され
         ている「シダレグリ自生地」もあります。
市野々の大クリ  (軽米町指定の天然記念物)
  所在地 軽米町大字小軽米17-89-6
        この大クリは指定当時(平成5年)「日本一のクリ」として注目され、樹齢650年と
         推定されました。しかしその後秋田県仙北市抱返渓流一帯からは、日本一のブナ
         やミズナラ、クリなどの従来の記録を塗り替える巨木が次々と発見され、日本一の
         座は明け渡しています。
          地元で「市野々のてんぐさま」と呼ばれ、その威容を誇っていたこの大クリ。現地
         を訪れてみると、ご覧の通り枯死寸前の姿を晒していました。撮ってきた写真は貴
         重なものになりそうです。
目通り周6.55m、根元周8.10m、樹高14.58m、樹齢推定650年(指定された平成5年時点)と解説されています。
                    クリの豆知識

        ブナ科クリ属の落葉高木で、クリ属は北半球の温帯に広く分納しています。日本のクリは
       欧米ではニホングリ(Japanese Chestnut)と呼ばれています。北海道南西部から九州屋久
       島の山地に自生し、朝鮮半島南部にも分布しています。果実をとるため日本では各地で栽
       培され、なじみの深い樹種です。
        雌雄同株で、雄花序は長さ10〜15cmの穂になって着き、よく目立ちます。雌花は雄花序
       の基部につきます。虫媒花で、花期は特有の甘く生ぐさいにおいが漂います。果実は長い
       棘(とげ)のある殻斗に包まれますが、クリ果実には多くの害虫がつきます。クリのイガは
       鳥や獣などからの害は防ぐ一方で、実につく害虫を天敵から守るという皮肉な役割を果た
       しています。
        クリの実は昔から重要な山の幸でした。食べものとしてはもっとも古い歴史をもっていると
       思われます。また材は耐久性があり、建物の建築材としても使われてきました。狩猟・採集・
       漁労が中心だった縄文文化の時代は、いわばクリの時代とも言うべきもので、青森県の三
       内丸山遺跡に見られるように、その遺跡などからそれが実証されています。集落周辺には
       大型の果実を着けるクリの純林なども育成・管理していたものと思われます。縄文時代後
       期・晩期には、現在の栽培品種に匹敵する大きさの果実を着ける品種が出来上がっていた
       とみられています。
        クリ材は耐湿性、耐久性に優れているので、現在でも家の土台の高級材として利用され
       ています。かつては鉄道線路の枕木としても多く使われました。