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コブシの巨木・古木には、深い思い入れがあります。そんなコブシの巨木が
宮古市赤前にあって、市の天然記念物にも指定されているというので訪ねて
みました。岩手県内では唯一天然記念物に指定されているコブシです。
花が咲く木なら、ぜひその花が咲いた姿を見たくなります。でも花の期間と
いうのは意外と短いもので、しかもその年の天候によって、見頃にはずれもあ
ります。遠くに出かける時は、事前に調査して、その見定めが肝要です。あち
こち出かけてはよく空振りもしますが、この宮古市赤前のコブシ、花はちょっと
早めでした。それでも「遠いところよく来た」とばかり、早咲き部分は咲いてい
ました。
最後の生命力を振り絞っているような、そんな壮絶ともみえる幹の姿には、
「がんばってますねえ」と、脱帽する思いです。
解説によると推定樹齢は200年ということです。 |
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宮古市指定の天然記念物
所在地 宮古市赤前15-70 |
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幹の周囲は4mとのことですが、中は空洞になっています |
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これでよく水分や養分が枝や葉にいくものですね。解説板を見て納得です |
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まだ咲き始めのようで、もう少しにぎやかになりそうですね |
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宮古市指定文化財 天然記念物 昭和37年4月18日指定
こぶしの木 推定樹齢約200年
このこぶしの木は、節くれだった幹が堂々とした風格をもっており、空洞の幹で巨体を支えて
いる姿は感動的な眺めといえます。幹の内部は空洞になっていますが、樹木は樹皮のすぐ内
側の部分で根が吸い上げた水分や養分などを枝や葉に送り、葉が光合成したものを幹などに
送るので、幹が空洞であっても生長することができます。花は白色で良い香りがあり、花びらは
6枚です。農家が田打ちをする4月頃に開花するのでタウチザクラとも呼ばれています。
高さ約15m 幹の周囲約4m
平成22年3月19日 宮古市教育委員会 |
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所在地 八幡平市安代町松木田 |
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(社)岩手県緑化推進員会が主催する「ふるさとの巨樹・名木観察会」に参加してその所在を
知った「松木田のコブシ」を訪れてみました。このコブシは天然記念物の指定はありませんが、
宮古の「赤前のコブシ」をしのぐ威容を誇り、岩手県一であるばかりでなく、おそらく全国でもこ
のようなコブシの巨木はほとんど見ることはできないでしょう。国道282号線からもよく見え、花
の時期をねらって訪れたので、その満開の姿を目にすることができました。 |
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家人のお話では、かつては大枝がこちらの方に
伸びて、空を被っていたそうです。その枝はいま
は幹から折れて、その付け根だったところに空洞
が見えています。地面には その大枝の残骸も
見えます。 |
左の写真のちょうどコブシの木の後側から撮った
光景です。折れたという大枝は、写真右側にある家
屋の軒先まで伸びていたそうです。いま残っている
ものより、倒れてしまった枝の方がすごかったそう
です。 |
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その関係を少し離れたところから眺めています。折れたという主枝は右側の家屋軒先まで
伸びていたと言いますから、往時はすごかったでしょうね。たしかにいまの姿は左側の片方
に偏っています |
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まさに満開です。木の下で畑作業をしている家人の話しでは、この年(2010年)はいつもより花が
多いとのことです |
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北関東以北に見られるコブシの多くは母種のコブシより花や葉がやや大きく、
植物分類学上変種とされるキタコブシが大半を占めています。ここのコブシも
花が大きく、花の基部が薄紅色を帯びるという特徴も備えていますので、キタ
コブシにまちがいないようです。 |
見学・観察している人との対比でも巨木ぶりがわかります |
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「コブシ」についての豆知識
コブシは北海道から九州まで生育分布していますが、特に東北地方に多く、関西では少ない
ようです。ホオノキやモクレンと同じ仲間で、花や樹皮は芳香を放つのが特徴です。香りのいい
白い花が美しいので庭木や街路樹に利用されますが、大木となるので小庭園には向きません。
またソメイヨシノより若干早く咲いて、早春の里地や山地に情緒を漂わせます。
コブシの材質は辺材、心材の区別がはっきりせず、全体に灰白色から灰黄色をしています。
コブシは器具材、漆器素地、薪炭材が主な用途ですが、茶室の床柱や軒の垂木などにも用い
られます。ホオノキと材質は似ていますが、少し硬いことなどから、ホオノキほど評価は高くは
ありません。
現存していたら日本一?
コブシの巨木・古木についての思い出は、生涯ついて回っています。少年時代に
育った家のすぐ側の高台には大きなコブシの古木があって、そこは少年たちの遊び
場でもありました。そのコブシの巨木、節くれだった根元の周囲がいかほどあったか、
いまでは知る由もありませんが、中は空洞になっていて、子ども3〜4人は一緒に入っ
て、中で遊べるような広さでした。その空洞の中をよじ登り、上方の枝が折れて窓の
ようになったところから顔を出す、それができると一人前と認められたものでした。
春先に咲く真っ白な花は見事なもので、高台の崖べりに咲く花を、ほとんど真下か
ら見上げることになるので、空いっぱい、白い花で被い隠すような迫力がありました。
現地ではタウチザクラと言われており、この花が咲く頃は苗代に水が張られ、馬も入
って耕され、モミが蒔かれたものでした。
またこのコブシの巨木はムクドリ(現地ではサクランドリと言っていた)の、繁殖
期のねぐらにもなり、大群がここに営巣することから、大変な「騒音公害」となりま
した。早朝には大騒動の末一斉に飛び立ち、夕方にはまた一斉に集まっては、合騒
交響曲が演じられました。また冬の寒い夜などにはよくフクロウの鳴き声を耳にした
ものです。「音にあいたい」ということなら、こんな鳥たちの声でしょう。
長じてそこを離れましたが、しばらくしてそのコブシの巨木は倒れる怖れがあるとい
うことで、伐採処分されたことを知りました。その跡地を見た時の気持ち……思い出
いっぱいの巨木はなくなり、側にあった3本ほどのスギの巨木も失われ、厳かで神
秘的だった高台の雰囲気は、どこにでもある陳腐なところに一変してしまいました。
少年時代の全てが否定されたような、そんな虚ろな気持ちにおそわれたものです。
残念ながら往時の写真はありませんが、もしそれが現存していたら、おそらく日本
一のコブシとされていることでしょう。岩手県内にある2本のコブシ巨木を見て、頭の
中でそれらと比較してみて、そう思います。秋田県大館市の桂城公園に近い、「小八
幡さま」と呼ばれていた小さな神社のあった境内での話です。
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