|
一科一属一種の珍樹種
|
円錐形の樹形が美しいコウヤマキは公園樹、庭園樹として広く
植栽されていますが、日本固有の樹種で、植物分類学上も一科一
属一種という世界でも珍しい樹種とされています。自生分布は福島
県から九州までの山地ということもあって、岩手県内では目にする
ことは少ない樹木ですが、世界三大造園木の1つとして世界中で植
栽されているとはちょっと驚きです。ちなみにその三大造園木とは
コウヤマキ、ヒマラヤスギ、アロウカリア(シマナンヨウスギ)と
なっています。
そのコウヤマキ。岩手県内で唯一天然記念物に指定されている
(奥州市指定)「旧殿のコウヤマキ」を訪ねてみました。また陸前
高田市には県内一の太さを誇る「大石のコウヤマキ」もあります
ので合わせて訪ねてみました。また四季折々植生の表情を観賞し
ている岩手大学の自然観察園にも壮齢のコウヤマキがあります
ので、合わせて紹介いたします。
|
|
|
|
|
|
(奥州市指定の天然記念物)
所在地 奥州市衣川区旧殿西風山25 |
|
|
奥州市衣川区(旧衣川村)の地はかつて奥六郡を治めた安倍氏の本拠地だったこともあって、
「安倍館跡」「一首坂」などそれにちなむ遺跡・旧跡が数々あり、その後の平泉文化の地でも
あったことから、「接待館遺跡」「長者原廃寺跡」など平泉文化にちなむ遺跡も数多くあります。
安倍氏から藤原氏の時代まで絶えず戦いの舞台となり、城柵や古戦場跡などが多いのですが、
一方平泉の地は都人からは憧れの地とされ歌まで詠まれた風雅の地でもあったようです。
「旧殿のコウヤマキ」はそうした遺跡に囲まれるように、小高い高台にある神社の境内に
ひっそり佇んでいました。 |
|
八幡神社本殿左手背後に見える太い木がコウヤマキです。幸運なことに
宮司さんにご案内いただき、神社の由来等についてもお話を頂くことができ
ました。境内を囲む林一帯の植林は宮司さん自ら行われたとのことです。 |
|
宮司さんのお話では地元に住んでおられる方の先代の家族が頻繁に病気に罹る
ということで高野山の聖地祈祷を勧め、それに従って高野山に参詣に出向き、その
帰りにコウヤマキの苗木を入手し、こちらに戻って来て参詣記念に植樹したものとい
うことです。それは昭和2年のことと言いますので、それからもう90年の年月が過ぎ
ています。
奥州市の関連ホームページによりますと、天然記念物の指定は平成7年11月6日
で、その時の測定値は樹高19m、根元周囲2.77m、胸高周囲1.79mとなっています。 |
|
|
枯れた下枝がいっぱい出ていますが、自然の状態を維持しているそうです。 |
|
|
針葉は葉の先端にトゲはなく柔らかくしなやかで、よく見ると2枚の葉が合着するという
特異な姿をしています。 |
|
|
|
所在地 陸前高田市高田町栃ヶ沢 |
岩手日報社発行の「岩手の名木・巨木」のなかで岩手県内一の太さを誇るコウヤマキが
紹介されています。陸前高田市栃ヶ沢にある「大石のコウヤマキ」です。天然記念物に指
定されてはいませんがひと目見たくなって、2009年8月に訪れました。小高いところの広い
立派な庭園に周りを睥睨するように立つその姿は印象的です。
陸前高田市は2011年3月の東日本大震災の際の大津波で市街地の大部分が被害に見
舞われ、あのコウヤマキや庭木はどうなったか気になっていました。本ページ作成に当たり
震災後6年半経ってから、あらためて現地を訪れてみました。コウヤマキをはじめとする庭
園の庭木は無事な姿を見せてくれました。ただし周り一帯は津波の被害が甚だしく、家人の
お話ではコウヤマキの根元まで津波が押し寄せたそうです。状況からして無事だったのは奇
跡に近かったとのことです。震災後は無事だったその姿を見物する人が後を絶たず、家人の
お話ではその数は万を超えると言います。 |
|
|
|
「岩手の名木・巨木」(平成9年9月初版)では樹齢150年、樹高25m、目通り周囲3.1m
となっています。それから20年は経っていますので樹齢は170年で、樹高や幹周囲の
数字もやや大きくなっていると思われます。 |
|
|
|
|
広い庭園内にはコウヤマキの他にも見事な庭木が見られます。 |
|
|
高台にある庭園から市街地方面を眺めています。右手に見えるコウヤマキの
根元まで津波が押し寄せたと言いますから、ここからの視界一帯の市街地はす
べて押し流されたことになります。道路向こうの造成中の高台は第一中学校が
あったところです。震災後6年半経ちましたが街の復興までまだまだ年月がかか
る……それが実感です。 |
|
道路側から高台にあるコウヤマキを眺めています。津波はこちらの方向から道路
沿いに山の見える方向に押し寄せました。あのコウヤマキの根元の高さまで押し寄
せたというから驚きです。斜面にはかつてはアカマツなどの樹木でいっぱいでいたが、
すべて大きく削り取られてなくなっています。コウヤマキも危ういところでした。 |
|
|
|
(岩手大学自然観察園の)
|
所在地 盛岡市上田3丁目18番地内 |
|
よく散策する岩手大学自然観察園にもコウヤマキがありますので紹介いたします。
この自然観察園は農学部の前身だった盛岡高等農林学校時代に植物園だったと
ころで、その当時からの樹木・灌木が多く残されています。このコウヤマキが植樹
された年代はわかりませんが、初めて目にしたのは昭和36年頃で、その時は高さ
はせいぜい数メートルのものだったと記憶しています。それから60年近い年月が
経っています。コウヤマキの特徴である円錐形の樹形がよく表れています。 |
|
|
|
|
胸高周囲を測ったところ1.8mありました。 |
|
和名の「コウヤマキ」は高野山真言宗の総本山である和歌山県の高野山に多く
生えていることに由来しています。高野山では霊木とされています。
用材としては水に強くて朽ちにくい特質があり、湯船材や橋梁材として重宝され
ています。古代には棺材として最上級とされたとあります。 |
|
|
|
|
|