イチイでは岩手県内一の太さを誇る
    早池峰神社の夫婦イチイ
 秋には雌木に赤い実が生るイチイ。年配の方ではその実を
食べた思い出のある人もいることでしょう。植物学上は仮種皮
なのですが、素朴な甘さがあります。黒っぽい種子は有毒な
ので、要注意です。
 庭木や生垣などに見られる樹木で、調べてみますと岩手県
内には天然記念物に指定されているイチイ(その変種とされる
キャラボク含めて)が多くあります。その最たるものは遠野市
附馬牛の早池峰神社境内にある「夫婦イチイ」で、岩手県の
天然記念物に指定されています。遠野市ではイチイがあちこ
ちで見られ、市が独自に天然記念物に指定するイチイが3件
あり、イチイを市の木と定められているのも頷けます。
 イチイの天然記念物の指定は県北地方に比較低多く、久慈
市(3件)、軽米町(2件)、二戸市(3件)、葛巻町(2件)、一戸町
(1件)などです。その他盛岡市(キャラボク)、矢巾町、紫波町、
花巻市、奥州市、藤沢町(キャラボク)、大船渡市などでも指定
されています。
早池峰神社の夫婦イチイ   (岩手県指定の天然記念物
 所在地 遠野市附馬牛町上附馬牛19-32
       早池峰神社というと、早池峰神楽(岳神楽)で知られる花巻市大迫町岳にある神社が
        思い浮かびますが、遠野市附馬牛にも、古い歴史をもつ早池峰神社が厳かに佇んで
        います。附馬牛地区は高い山に四方を囲まれて盆状を呈し、神社のある大出はちょう
        ど盆の中心部に位置しています。遠野の里から早池峰山に登るには、この地を経由し
        て、北側に迫る薬師岳筋の尾根を越えての難行でした。
         早池峰神社境内には樹齢数百年と言われるスギやサワラの巨木群があり、その中に
        雌雄の大きなイチイがあります。雌雄対となったイチイの大木があるのは珍しく、太い方
        の雌イチイの方は目通り4.6mで、岩手県内一の太さを誇っています。
左の写真が雄木で、右の写真が雌木。どちらも堂々たる風格です。
少し離れたところから眺めています。左が雄木で右が雌木。
広い境内には各種巨木が林立し、その奥に本堂がひっそり佇んでいます。
   上禰宜のウッコ   (遠野市指定の天然記念物)
 所在地 遠野市附馬牛町大出
      早池峰神社の近くの上禰宜(かみねぎ)には遠野市が天然記念物に指定するイチイ
       があり、「上禰宜のウッコ」と称されています。この地ではイチイのことをウッコとも言っ
       ているようです。この木を探すのには大変苦労しました。地元の人もその存在をほとん
       と認識していないようです。屋敷の先祖が手植えしたものとされています。樹齢は1000年
       くらいと推定されています。
沢里のオッコ  (軽米町指定の天然記念物)
  所在地 軽米町大字上館1-29-1
      軽米町が天然記念物にしているイチイは2件ありますが、そのうちの1件「沼のイチイ」は
      ほとんど枯死状態で見る影もありません。もう一方の「沢里のオッコ」は丸い樹形が美しく、
      樹勢も旺盛で見応えのあるイチイです。「オッコ」とは当地方のイチイの呼称ということです。
イチイの雄株で、目通り周り3.96m、樹高12m、樹齢推定410年(指定された昭和48年時点)と解説されています。
                    イチイの豆知識

         イチイはカヤに似た葉をもつ針葉樹で、やはり雌雄別株。まれに同株のものがあります。
        暗い林内でもよく育つ典型的な陰樹です。北海道、本州、四国、九州の亜高山帯や寒冷地
        に分布し、海外ではサハリン、シベリア東部、朝鮮半島、中国などに見られます。
        庭木や生垣によく使われ、材としては非常に優れ、生長が遅いので年輪が緻密で強度も
        十分です。材が重厚な割には切削などの加工が容易なので建築材や家具材に適していま
        す。しかし現在では大径木が少ないので、彫刻などの高価なものの材料になっています。
         和名のイチイについては昔朝廷の官吏が正服を着る際に手にもった笏をこの材でつくっ
        たことから、位階の正一位、従一位にちなんでイチイと命名されたといわれています。
         寒冷地では古くから身近な木であったことから、イチイにはいろいろな方言がつけられて
        います。オンコ、オッコ、ウッコ、キャラボク、アララギなど。