生きた化石として知られる
メタセコイア
 生きた化石として、また美しい並木でも知られているメタセコイア。
美しい樹形と共に、日本の気候によく合い生長も早いことから、各地
の公園や街路樹に植栽されています。岩手県内でも各地で目にしま
すが、宮古市田老館が森の田老第一小学校校庭のメタセコイアは
宮古市の天然記念物に指定されており、メタセコイアの天然記念物
は珍しいことから、このページを起こすことにしました。
 メタセコイアが一般に知られるようになったのは戦後のことです。
日本の植物学者三木茂博士が1939年にセコイアに似た落葉種の植
物遺体(化石の一種)を発見し(和歌山県、岐阜県)、メタセコイアと
命名し、1941年に学会で発表したのが始まりです。
 化石だけで現存しないと思われていましたが、1945年中国四川省
で発見され、「生きた化石」として知られるようになりました。アメリカ
の学者・調査団がすかさず現地入りし、詳しい調査とタネの採取が
行われました。日本には1949年にアメリカから種子が入り、翌年
1950年には100本の苗木が入ったといわれています。それからま
70年も経っていません。
 メタセコイア命名者の三木茂博士は香川県出身の人ですが、岩
手大学農学部の前身である盛岡高等農林学校の卒業生で(1921年
卒業)、その学び舎の跡には業績を顕彰する碑が設置されています。
またそこには2本のメタセコイアが植栽されており、植栽後60年以上
経った貫禄ある威容で来訪者を迎えています。
 また盛岡市の岩山公園では、記念植樹されて40年が経ち、枝いっ
ぱいに伸ばして旺盛に生長を続けているメタセコイアの姿を目にす
ることができます。
 それらも合わせて紹介いたします。
        (田老館が森の)メタセコイア   宮古市指定の天然記念物
  所在地 宮古市田老館が森155-2
       冒頭述べたように1950年にアメリカの研究者からメタセコイア保存協会を通じて100本の
       苗木が寄贈されましたが(京都大学農学部が管理に当たったようです)、挿し木による増殖
       が簡単なことから、苗木を増やして、全国に頒布されました。
       「生きた化石」として話題性に富み、樹形が優れ、生長がよく安定していること、落葉樹で
       春の息吹や秋の黄葉が美しいこと、などから、昭和30年代(1955年〜1964年)には全国的
       なメタセコイアブームを巻き起こし、公園樹、街路樹として各地で植栽されました。この田老
       第一小学校校庭に見られるメタセコイアも、その頃に植栽されたものと思われます。
        岩手大学植物園のメタセコイア 所在地 盛岡市上田3丁目18-8
      岩手大学農学部の前身である盛岡高等農林学校開学当初の林学教舎の南側一角に、メタセコイアが
      並立しています。命名者の三木茂博士が学んだ教舎の跡に、その姿は誇らしげに見えます。幹の周囲
      (胸高)を測ってみますと写真右側が3.3m、左側が3.1mあり、観る人を威圧するかのようです。
       これは1954年(昭和29年)に京都大学から千葉宗男名誉教授(造林学・故人)が譲り受けて植栽
      された株とされていますので、時期的にみてメタセコイアの植栽としては岩手県内では最も古いもの
      に属するものと思われます。
       この株からの増殖も行われたようです。
      2本のメタセコイアのすぐ近くに、全く似たような樹木が1本聳え立っています(写真左の樹木)。
      幹回り(胸高)は4.0mあります。これはあまり見かけることのないヌマスギで、北アメリカ原産の
      ものです。
       岩手大学農学部植物園には高等農林学校時代に導入の先駆木として植栽された外国産原種
      の樹木が多く、樹木園の様相を呈しています。
岩山公園のメタセコイア   所在地 盛岡市新庄字岩山50番地6
        メタセコイアというと並木道に立つ下枝のないすっきりした姿をイメージしますが、盛岡市
       岩山公園でみるそれは自由奔放に育った姿をしています。場所は街中ではなく山の中腹
       部で、メタセコイアのより自然な姿と思われます。
        1976年に記念植栽されたと解説されていますので植栽後40年というところですが、幹回り
       (胸高)は3.1m、2.8mの大木になっています。生長が早く安定していることから一時国内で
       造林もされましたが、材が軟らかい、繊維が短いなどの難点があり、造林は進まず、現在
       ではなされていません。
             黄葉したメタセコイア
      メタセコイアはカラマツ同様針葉樹としては珍しい落葉樹です。秋には黄色から茶色に変化します。
      太古からの樹木で化石だけで現存しないと思われていたこと、中国奥地で生存が発見されたこと、
      黄葉し落葉すること、公園樹、街路樹として重宝されることなど、メタセコイアとイチョウは多くの
      類似点を持っています。
               「メタセコイア」と「ヌマスギ」
    岩手大学農学部植物園で見かけたメタセコイアとヌマスギ。並ぶように立っているその姿を目に
    できるのは、やはりここが植物園だからでしょう。他ではほとんど目にすることはできません。樹形、
    樹皮、枝葉、黄葉し落葉することなど、非常によく似ていますが、メタセコイアが側枝に対生するの
    に対してヌマスギは側枝に互生すること、球果が大きいことで区別できるとされています。
     ヌマスギは北米原産(北米東南部、メキシコ)で、別名ラクウショウ(落羽松)とも呼ばれています
    が、その名の通り沼地や湿地帯、川辺などによく生育する樹種です。こうした場所では膝根(しっ
    こん)と呼ばれる呼吸根を地中から出し、特異な景観をつくるといいますが、植物園で見かけたヌマ
    スギは沼地でないためか、それは出ていません。
     幹の下部に凹凸が多いのもメタセコイアとヌマスギはよく似ています。