湿原に春の訪れを告げる
(沢内・蛭山の)
ミズバショウ
 雪の残る早春の湿原や水辺でよく見かけるミズバショウ。
真っ白で、神秘的にひっそりと咲くその姿には心惹かれる
ものがあります。そのイメージを湿原の妖精と言った華道
家もおりました。
 東北、北海道では早春の湿地帯でよく目にする花ですが、
関東以西には分布せず、この花への憧れは強いようです。
 岩手県内にはミズバショウの名所が各地にありますが、
天然記念物に指定されているのは西和賀町で1件、金ケ崎
町で2件の合わせて3件です。

 いくつか訪れたミズバショウの名所を紹介します。
   蛭山のミズバショウ群生地   (西和賀町指定の天然記念物
 所在地 西和賀町蛭山〜鍵沢
    西和賀町の旧沢内村地区には、ミズバショウの群生地が多く、ここ小鍵沢一帯(蛭山のミズバショウ群生地)
   のほか、貝沢・大木原(長橋川ミズバショウ群生地)や、大野・内沢(内の沢ミズバショウ群生地)の群生地も、
   名所として知られています。いずれも自然環境が保全され、学問的にも貴重な存在とされています。
    沢内地方ではミズバショウは、「牛の小舌」、「おおば」とも呼ばれ、花粉に触ると手が焼けるといわれてきたそ
   うです。また実が塾せばクマが好んで食べるとも伝えられています。
道路わきの案内表示板が目立ちます。 先客がいました。園児たちの自然観察会?
 自然のままの、野趣豊かな湿原です。
純白の花びらと思われているのは仏炎苞と呼ばれるもので、ほんとうの花はその苞の中に包まれた
棒状の花穂にびっしり付いています。花が終わると、葉はどんどん大きくなります。
         2週間後(5月中旬)には花も終わって、様相が一変していました。
  貞任高原ミズバショウ    所在地 遠野市土淵町山口 国有林内
       遠野市の北東部は高原状で、牧場地が広がっています。その牧場地の入口部分にミズバショウ群生地
      があり「貞任高原のミズバショウ」として名所になっています。訪れたのは4月末ですが、花の見頃は終わり、
      ちょっと遅かったようです。でもここもまた、野性味たっぷりの姿を見せてくれました。
       入口の解説版には、以前はこの地の人々は煙草畑に似ていることから、タバコバタと呼んでいたと解説さ
      れています。
  春子谷地ミズバショウ群落   所在地 滝沢市鵜飼地内
          滝沢市の春子谷地に見事なミズバショウ群落があるというので訪ねてみました。
         場所は春子谷地湿原そのものではなく、県道鵜飼滝沢線の盛岡側にある小さな
         湿原ですが、密生した見応えのある群落を成していました。
なぜか心惹き付けられますねえ。その色かな、姿かな。両方でしょうね。
     櫃取(ひつとり)湿原     所在地 岩泉町櫃取
       北上高地の山ふところにひっそりと佇む櫃取湿原は、岩手県の自然環境保全地域に指定され、
      「21世紀に残したい日本の自然100選」にも選ばれた自然の宝庫です。ミズバショウの名所として
      も知られています。標高が千メートル程あって春の訪れは遅いのですが、残念ながら花の時期を
      逸しての訪問となってしまいました。
   櫃取湿原は高山植物や野鳥の宝庫で、自然愛好家の心をつかんで離しません。
      ザゼンソウ    所在地 西和賀町左草地内
          ミズバショウと同じく仏炎苞とをもつザゼンソウ。分布は本州中部以北でミズバショウと
         重なります。花期はミズバショウよりわずかに早いようです。西和賀町左草地内の道路両
         側に小さな群落を見つけ、写真に収めることができました。
          ザゼンソウの名称の由来は、僧が座禅を組んでいる姿を思わせることからといわれてい
         ます。
     ザゼンソウには発熱現象があるということで、岩手大学農学部の研究者を中心にその
     メカニズムの研究が深められています。発熱するのは仏炎苞の中の楕円球状をした花
     の咲く部分だけですが、開花している1週間くらいの間、外気温に関係なく20度程度の温
     度に保たれるそうです。春一番にミズバショウより早めに咲く秘密はそこにありそうです。
                  ミズバショウの豆知識

      ミズバショウは積雪地帯の湿地や水辺に群生するサトイモ科の多年草植物です。春はよく日が
       当り、夏は半日陰になるような落葉樹林の縁のようなところでよく育ちます。泥炭湿地では地下茎
       は横にはわず、地中に真っ直ぐに伸び、ときには1メートル以上にもなります。環境に敏感で、少
       しでも環境が汚染されると生育できなくなります。
        若葉が開き始めると、葉のわきから純白の仏炎苞に包まれた花茎を出します。花茎の先には、
       無数の小さな両性花が咲き、花が終わると、葉はどんどん大きく育ち、葉の根元あたりに緑色の
       果肉がつきます。この中には小さな種子がたくさんあり、指で触れるとパラパラ落ちます。
        ミズバショウの分布は日本では本州の中部以北および北海道で、カムチャッカ、サハリン、シベ
       リア東部に分布します。
        生育条件にもよりますが、花の草丈は10〜80センチメートルに、葉は1メートル近い大きさにな
       り、その様子がバショウの葉に似ていることから、この名称がつけられました。
        ミズバショウといえば日本では純白のイメージですが、ミズバショウ属には2種があり、もう一つ
       の種は北アメリカ西海岸北部に分布するアメリカミズバショウで、これは鮮やかな黄色をしていま
       す。