ヒガンザクラの古木が連なる桜並木南面のサクラ・ ヒガンザクラ群  岩手県内では各地で多くのサクラの木が天然記念物
に指定されています。訪れたところについてはこのサイ
トでも紹介してきました。
「駒形神社・水沢公園のヒガン系桜群」「盛岡のサクラ」
「盛岡のサクラ(2)」「遠野のサクラ」「貝沢の峰桜」
「大船渡のサクラ」「七ツ田の弘法桜」
 これら天然記念物の大部分はエドヒガンとその園芸品
種とされるシダレザクラで占められていますが、サクラ
のなかでは長寿で大木になることから重宝されたものと
思われます。開花を稲作の暦代わりにした時代の名残
で、なかには「種まき桜」とよばれるものもあり、様々
な伝承をもつものもあります。
 各地のサクラめぐりはその後も続けており、その中か
らいくつか追加で紹介いたします。
南面のサクラ・ヒガンザクラ群 紫波町指定の天然記念物
所在地 紫波町桜町字本町川原1
        かつて奥州街道でもあった紫波町日詰の通り。その通りから東側200メートル程
       の参道奥に格式が高いとされる神社があります。赤石神社、赤石さんともよばれる
       志賀理和気神社です。この神社は志波城造成(803年)、徳丹城造成(811年)の時
       期に創建されたとみられる古い歴史を有する神社で、延喜式内社(延喜式神名帳に
       記載された神社)としては最北の神社とされています。
        その参道にヒガンザクラの古木が連なる桜並木があり、町の天然記念物に指定さ
       れています。その中で道路から入ってすぐ左側のところに立つのが「南面のサクラ」
       で、花が南面を向いて咲くとして名付けられたようです。このサクラには伝説があり、
       現地案内板にそれが紹介されています。「縁結びの桜」と刻まれた碑も立っています
       ので、桃香姫の思いも願いかなったということでしょう。
        サクラを眺め歩いていると近所に住んでおられるという年輩の女性にお会いし、暫
       しの立ち話。少女時代からここは遊び場だったそうですが、往時は花はいっぱいで、
       それはそれは美しかったということです。ヒガンザクラ系のサクラがまとまっていると
       ころとしては岩手県内最古のものと言われていますが、その老衰ぶりは隠しようがあ
       りません。
           並木状に続くヒガンザクラはしっかり花を咲かせていますが、枯れ枝が目立ち、
          その花の数は少なくなっています。枯死寸前でなお若枝を出して咲かせるその
          姿には、脱帽の思いさえします。一帯の往年の美しさは如何ばかりだったでこと
          でしょう。
          参道奥には志賀理和気神社が厳かに構えています。その境内右手に赤石
         神社の名の由来とされる霊石「赤石」が祀られています。このような天然の
         赤石を目にするのは初めてです。霊石に止まらず天然記念物としての価値は
         ないのかな。
      鳥谷脇のサクラ 北上市指定の天然記念物
 所在地 北上市和賀町横川目
          太さでは岩手県内最大というエドヒガンがあるというので訪ねてみました。
         現地の案内板からすると推定樹齢5百年といったところですが、近づいて
         よく見ると、さすがに老衰して崩れ倒れそうにも見えます。しかし枝はよく広
         がって、美しい花を見せてくれています。それにしても生命への執念を感じ
         させる姿です。
      長善寺の桜樹(エドヒガン) 花巻市指定の天然記念物
所在地 花巻市石鳥谷町新堀
          石鳥町の長善寺に寄ってみました。ここでは「エドヒガン」と「シダレイチョウ」
         が花巻市の天然記念物に指定されています。案内板によると元和3年(1617年)
         大洪水に遭遇した長善寺が北上川岸から当地に移った折に植えたと伝えられ
         ているそうなので、樹齢はほぼ400年ということになります。上部に枯れ枝も見
         られますが樹勢は旺盛で美しい樹形にきれいな花を咲かせています。
長善寺のシダレイチョウ 
花巻市指定の天然記念物 
          すぐ近くに天然記念物に指定されているシダレイチョウの案内板が
         出ていてその存在を知ることができました。近くで見上げてよく見ると、
         下の方に確かに枝垂れた枝が認められますが、全体として枝垂れは
         あまり顕著ではありませんね。シダレカツラ、シダレアカマツは既に見
         ておりますが、シダレイチョウを目にするのは初めてです。
                「エドヒガン」についての豆知識
         エドヒガンは本州、四国、九州、および朝鮮半島の山地に自生するサクラの代表的
        野生種で、春の彼岸の頃に咲くのでヒガンザクラともよばれますが、同じくヒガンザク
        ラとよばれるコヒガン(小彼岸)と区別するため、エドヒガン(江戸彼岸)の名が付けら
        れています。東京に多く植えられていたのでしょう。別名にアズマヒガン、タチヒガン、
        ウバヒガンともいわれています。
         若芽が開くより前に花が先に咲くのが特徴です。また他のサクラに比べて葉は細
        長く、側脈が13対程度と長いのも特徴です。開花時期が早く、ソメイヨシノやヤマザ
        クラよりも早く開花します。花の色は普通淡紅色ですが、時にかなり濃い紅紫色や、
        まれに白色の花も見られます。三陸海岸などでは花の色が濃い個体が多く見られ、
        南下するにしたがって淡い色のものが多くなる傾向があるようです。
        サクラのなかでは長寿で大木になることが多く、各地で天然記念物に指定されてい
        るサクラの大部分はエドヒガンとその園芸種のシダレザクラで占められています。幹
        が太くなると樹皮の縦の溝が目立ってきて、横長の皮目が目立つヤマザクラグルー
        プとは明確に異なっています。
         エドヒガン系の園芸品種は多く、シダレザクラ(イトザクラ)、ベニシダレ、ヤエベニシ
        ダレ、コヒガンなどはそれに属します。サクラの園芸種は一説には300種ともあるいは
        400種とも言われていますが、きちんと分類整理がついていないものも多く、正確な数
        はわからないというのが実態です。江戸時代には参勤交代の際に各地桜の品種苗木
        が全国規模で流通し、品種の複雑化がより進んだようです。
         これら園芸品種の元となった野生種としては以下の品種が挙げられています。

        エドヒガン、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、カスミザクラ。
        現在全国で一番多く植えられているソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラの雑
        種とされています。