国指定の特別天然記念物
夏油温泉の石灰華
石灰華としては日本最大のもの
 日本は火山国で温泉にも恵まれ、由緒ある温泉が各地にあって
人々に親しまれています。その数も多く、温泉現象に関する天然
記念物も多いだろうと思っていましたが、意外に少なく、全国的に
みても温泉に関しては、間欠泉と温泉沈殿物に関するものに限定
されています。
 岩手県においては火山に関しては「焼走り熔岩流」が、そして温
泉に関しては「夏油温泉の石灰華」が天然記念物に指定されてお
りますが、どちらも国の特別天然記念物に指定されています。
 夏油温泉の石灰華の指定は、夏油温泉周辺の夏油川一帯で見
られる石灰華がその対象となっていますが、その目玉とされてい
るのはよく知られているドーム状になった「天狗ノ湯」の石灰華です。
 2012年10月上旬にあらためて訪ねてみましたが、昔見たような
野趣はなくなり、ちょっとがっかりしました。川の水の取水や、砂防
堰堤の建設、護岸工事などの影響がドーム石灰華のメカニズムに
作用しているのではないかと懸念されます。
    夏油温泉の石灰華の目玉とされる 石灰華ドーム「天狗ノ湯」
        夏油温泉は焼石連峰の北側、夏油川の上流に湧く温泉です。夏油川の川床や川に面した崖に
       湧く温泉はすべて石灰岩と食塩を含んでいて、東北地方でもこのような温泉の例はそう多くないそ
       うです。ここでは温泉の湧くところいたるところで石灰華を見ることができますが、一番大きいのが
       下の写真の「天狗ノ湯」です。このドームは高さが17.6m、下底の径が約25m、頂上部の径が約7m
       もあって、同種の物では日本で最も大きいとされています。
        温泉水に含まれる炭酸カルシウムが沈殿してできたものですが、こんなになるまで……要した年
       月は気の遠くなるほどのものでしょうね。(下の写真は1991年8月撮影のものです)
     石灰華 ー  温泉水は一般に高温で、マグマから由来した成分や地下の通路に接する岩石中の
            石灰分や珪酸分を溶かしたりして地上に湧出し岩石の表面に石灰華や珪華をつくる。
            水に溶ける形の炭酸カルシウムが多量に溶けている場合は、温泉水が地上に湧き
            出すと急に温度も圧力も下がるため、炭酸ガスなどは分散して放出されてしまう。そ
            うなると今まで水に溶けていたカルシウム分が水に溶けない炭酸カルシウムになって
            岩肌などに沈殿して生じる。純粋なものは白い多孔質な鉱物だが、実際は不純物が
            混じって灰色、茶などの色がついて見える。
                   (岩手県文化財普及シリーズ1 「岩手の自然」より)  
                       
          最新の姿を撮ってみると……
            河床は埋り、岩肌に潤いがなく、さえない姿になりましたね
岩肌の一部(成分は炭酸カルシウムcaco3ということですから、貝殻の主成分と同じようなもの?) 
ドームに登って上の状況も知りたくなりますが、石灰華へのいたずらは厳禁。離れて見るだけです。
             
           かつてはこんな姿で紹介も……
雨上がりの時でしょうが、それにしても生き生きした姿をしておりますね。
(講談社「日本の天然記念物8」(1984年6月発行)より転用)
        牛形山山頂から見下ろす夏油温泉
           牛形山山頂から、夏油温泉を見下ろしたところです。遠方に入畑ダムによる
          人造湖が見えます。そのさらに向こうには北上市が見え、双眼鏡では大きな
          ビルも望まれます。夏油高原スキー場は写真の左方に位置します。 
           夏油温泉は 寛永年間に京都で版行された全国湯番付に、東の大関として紀
          州和歌山の本宮の湯とならび称された名湯といいます。大自然に抱かれた、昔
          からの由緒ある温泉です。
           夏油温泉については、江戸中期に盛岡藩の武士が書いた「従花巻夏油温泉
          迄一見記」という確かな記録があるそうです。そこに描写された夏油温泉の情景
          は、車が通じる前の夏油の姿そのものといいます。盛岡藩武士が書いたのは
          1747年のこと。車が通るようになったのは1972年のこと。その間220年余り。夏油
          の原始の姿は、ごく最近までは保ち続けてきたことになります。
           車が通ってからの夏油温泉の変貌……「原始性の一瞬の破壊」、そのものです。
            昔の夏油の姿を書いた武士が今日の夏油を見たら、何を思い、何と書くこと
          でしょう。