海岸の高山植物
田野畑村 シロバナシャクナゲ群落
 岩手県宮古市の北に位置する田野畑村。弘化4年(1847年)の一揆に続い
て起きた嘉永6年(1853年)の南部三閉伊一揆蜂起のほら貝が鳴り響いたと
ころでもあります。その一揆の次第は田野畑村民俗資料館で参観することが
出来ます。盛岡藩に49条の要求をほぼ全面的に受け入れさせ、一揆指導
者の処分を一切しないことを確約させた日本民衆闘争史上一大金字塔ともい
える百姓一揆(というよりも大衆一揆)でした。
 そんな田野畑村の海岸線は陸地が大きく隆起して海岸段丘が発達した地
形で、段丘崖が険しく接する海岸線が続いています。北山崎、鵜ノ巣断崖な
どは勇壮豪快な感動を与える景観として観光の名所になっています。その北
山崎周辺には冷たい海風やませの影響などもあって高山植物のシャクナゲ
が自生しており、シロバナシャクナゲ群落として岩手県の天然記念物の指定
を受けています。
 その花の時期を見計らって現地を訪れてみました。
田野畑村 シロバナシャクナゲ群落  岩手県指定の天然記念物
 所在地 田野畑村北山国有林内
       シロバナシャクナゲの自生群落があるのは北山崎周辺と言われますが、その自生分布
        はどの辺でしょうか……いろいろ調べてみましたが自力で探し当てることは難しいようで、
        北山崎の展望台・ビジターセンター周辺の北山崎園地に植栽されているシロバナシャク
        ナゲを観賞することにいたしました。
       田野畑村が設置した「遊歩道百選 北山崎自然遊歩道」の看板からの案内図です。
       これによるとシロバナシャクナゲ群落は自然遊歩道をたどって探す以外ないようで
       すね。一帯は峻険な地形ですので探し歩くのはよしたほうがよさそうです。
        北山崎観光の拠点北山崎園地についての案内板です。自然観察ゾーン
         の中に2200本のシャクナゲが植えられ、散策路から自由に観賞できるよ
         うになっています。
        上の2枚の写真は第1展望台から第2展望台へ向かう遊歩道の中間辺りで、
         自然の茂みの中で目にしたシャクナゲです。おそらく自生のものと思われます。
         その姿をしっかりカメラに収めまることができました。
これが北山崎園地に植栽のシロバナシャクナゲ群落
         北山崎園地内にいっぱい咲いていましたのでじっくり観賞することができました。
         一帯は6月中旬頃が見頃のようです。大きい株から小さい株まで、各種見られま
         すが、植栽の時期のずれによるものでしょう。
          このシャクナゲはハクサンシャクナゲとも言われ、もともとは亜高山帯から高山
         帯にかけてが本来の生育場所です。普通せいぜい2m以下ですがここの自生の
         シャクナゲは人の背丈よりも高く3〜4m位まで伸び幹も太いそうです。夏の海か
         ら吹き付ける冷たいヤマセが影響していると思われますが、海岸でシャクナゲが
         見られるのは北海道と佐渡ヶ島があるくらいで、全国的にも珍しいといいます。

             
冒頭の案内略図にあるように北山崎の南側一帯のアカマツ林の下に多く自生し
         ているようですが、南下して鵜ノ巣断崖のある槙木沢付近まで分布しているという
         解説もあります。
           第2展望台から眺める北山崎のダイナミックな景観
       北山崎は手つかずの自然がそっくり残された壮大な断崖景観をなしています。200m近い
       大断崖が8キロにもわたり、観る人を魅了します。豪壮雄大な断崖にはご覧の通りの複雑
       な凹凸があり、アカマツを中心とした自然林で被われています。そのアカマツの下でシロバ
       ナシャクナゲはたくましく生息しているというのです。

      海からもその群落を観察できるということを書いている本もあって、それならぜひ観察した
       いものだと北山崎断崖クルーズ観光船の発着所のある島越(しまのこし)に向かいました。
                海から眺める 北山崎の断崖
       北山崎の海からの観察は、島越漁港から出ている「北山崎断崖クルーズ」を利用します。
       50分間の周遊となり、観光船は海岸線に沿って北山埼展望台のある海域まで運行して
       いますが、残念ながら海からその群落の生息を確認することはできませんでした。双眼
       鏡など携えるとそれが可能になるかもしれません。
                            クリックすると拡大できます。
櫃取湿原湿原のシャクナゲ  所在地 岩泉町釜津田 
      昔、北上高地の櫃取湿原でもシャクナゲを見たことを思い出しました。その時はカメラを
      持参せず写真はありませんので、あらためて訪ねてみました。
         この湿原ではクマを見かけたとよく聞きます。独り歩きは怖いところです。
         湿原の奥まったところで目にするシャクナゲ。うーん残念。6月中旬なのに
           まだ蕾も硬い。花は7月に入ってからでしょうね。
白岩岳の万年石楠花  所在地 秋田県大仙市角館町白岩 
       シャクナゲと言えば、秋田県大仙市のたざわこ芸術村から見える白岩岳に登った際
       に頂上近くで目にした大きなシャクナゲを思い出します。地元で「万年石楠花」と言われ
       ていたシャクナゲです。下の写真はその時に撮った写真で、1988年9月のことですから
       もう30年の年月が経っています。
雪に押しつぶされたようになって、今はその原型をと
       どめていないようです。
          側に人物などいるとその大きさに驚かれると思いますが、比較できる
           ものがなくてその巨木ぶりがわからず残念です。
花の時期にも訪れ
           たいという願いは叶わずままに過ぎてしまいました。
               「シャクナゲ」についての豆知識
     シャクナゲはツツジ科ツツジ属シャクナゲ亜属の植物で、花を見るとわかるようにツツジの仲間です。
     日本に分布するシャクナゲは大きく二つのルートで日本に進出してきたとされており、一つは北海道、
     本州と南下したルートで、北山崎で見たシロバナシャクナゲ(ハクサンシャクナゲ)はそれに含まれま
     す。また似たようなキバナシャクナも該当します。
      もう一つは中国、台湾方面から屋久島、九州、四国、本州へと北上したルートです。このルートをた
     どった種には、ヤクシマシャクナゲ、ツクシシャクナゲ、ホソバシャクナゲ、ホンシャクナゲ、アズマシ
     ャクナゲなどがあり、その中で最も北に分布するするのがアズマシャクナゲです。その分布は宮城・
     山形県以南の東北、関東および中部(新潟・長野・山梨)の標高800〜2000mの山地林内に生えます。
      ハクサンシャクナゲは北海道、本州、四国の高山から亜高山帯に分布します。寒さに強く園芸品種
     の母種にされます。岩手県では五葉山の山頂付近、日枝神社の少し下あたりの群落が名所にもなっ
     ています(見頃は7月中旬)。