不思議なバランスをとった巨石
(綾織の)続石
 盛岡方面から遠野街道(国道396線)を通って遠野に向うと、
遠野市綾織町に入り、国の重要文化財に指定された「南部曲
がり家千葉家」が左手に見えてきます。そこを少し過ぎると
「続石」の案内があり、そこに車を止めて、山道を少し辿ると写
真でみるような「続石」があります。遠野市が指定する天然記
念物で、その大きさに圧倒されます。一帯は花崗岩帯で、周辺
には巨岩・奇岩の類が多く見られます。
 「続石」の天然記念物ということでは、久慈市が指定している
「続石」もあります。旧山形村の久慈市山形町日野澤にあり、
こちらの方は5段重ねの巨石です。
      (綾織の)続石   (遠野市指定の天然記念物
 所在地 遠野市綾織町大畑
         2つ並んだ2m余の台石の上に、巨石が横に乗っている光景はまことに異様なものがあります。
        笠石の大きさは幅7m、奥行き5m、厚さ2mとの記録がありますが、重さは何トンあるのでしょね。
        自然現象としては不思議なことから、原始巨石文化ドルメンの類ではないかともいわれています。
        ドルメンとは巨石記念物の一種で、支石墓ともいわれています。新石器時代から鉄器時代初期
        に世界各地でつくられ、東アジアでは朝鮮半島で発達したようです。日本では弥生時代の北九州
        にみられるということです。
         一帯は花崗岩帯で、付近にはこれに類した巨石・巨岩があちこち散見されます。それらの石も
        花崗岩です。現地は傾斜地で、元々この場所にあったものと思われます。古い地質で構成され
        る北上高地の一角。長い年月による岩盤・岩石の崩壊・浸食作用によって原型ができたとみるの
        が妥当のようです。硬い部分が残ったのでしょう。
         それにしても微妙なバランスですねえ。地震にもよく耐えてきたものです。
              この角度から眺めるのが一番迫力があるようです
              よく見ると、乗っかっているのは片方の石だけです。
           柳田國男「遠野物語拾遺」にも出てくる「続石」「泣石
      続石の近くに「泣石」と呼ばれる大きな石がありますが、「遠野物語」の拾遺集第11話に、
      それにまつわる伝説が出ています。

      「綾織村山口の続石(つづきいし)は、此頃学者の謂ふドルメンといふものによく似て居る。二つ
        並んだ六尺ばかりの台石の上に、幅が一間半、長さ五間もある大石が横に乗せられ、其下を
        鳥居の様に人が通り抜けていくことができる。武蔵坊弁慶の作ったものであるといふ。昔弁慶
        が此仕事をする為に、一旦この笠石を持って来て、今の泣石といふ別の大岩の上に乗せた。
        さうすると其泣石が、おれは位の高い石であるのに、一生永代他の大石の下になるのは残念
        だと謂って、一夜中泣き明かした。弁慶はそんなら他の石を台にしようと、再び其石に足を掛
        けて持ち運んで、今の台石の上に置いた。それ故に続石の笠石には、弁慶の足形の窪があ
        る。泣石といふ名も其時から附いた。今でも涙のように雫を垂らして、続石の脇に立っている。」
                  
(日野澤の)続石  所在地 久慈市山形町日野澤13-58-25
       やっと探し当てた続石神社の背後に、自然の岩石が屹立しているのが見えます。節理(割れ目)
        によって横方向に5段に割れています。背面に回ってみると縦にも割れ目も見えます。自然界に
        おける岩石の崩壊過程ですが、5段重ねとは珍しい形状の巨石です。
               「天然記念物」についての豆知識

       「天然記念物」とは動物、植物、地質・鉱物などの自然物に関する記念物です。日本においては
        文化財保護法や各自治体の文化財保護条例に基づいて指定されます。指定対象は「動物」「植物」
        「地質鉱物」及び「天然保護区域」ですが、生物種や単一の鉱物だけでなく、動物の場合は生息地、
        繁殖地、渡来地を、植物の場合は自生地を、鉱物の場合は特異な自然現象を生じている土地や
        地域を指定することもできます。天然保護区域とは天然記念物を含んだ一定の範囲のことです。
        これらのうちで特に重要なものは「特別天然記念物」に指定されます。これらの指定基準は「国宝
        及び重要文化財基準並びに特別史跡名勝天然記念物および史跡名勝天然記念物指定基準」に
        基づきます。
         この「指定基準」では、以下に掲げる動物植物及び地質鉱物のうち学術上貴重で、わが国の自然
        を記念するものとなっています。各自治体の指定基準もこれに準じています。
         <動物>
           1.日本特有の動物で著名なものおよび棲息地
           2.特有の産ではないが、日本著名の動物としてその保存を必要とするもの及びその棲息地
           3.自然環境における特有の動物又は動物群聚
           4.日本に特有な畜養動物
           5.家畜以外の動物で海外よりわが国に移殖され現時野生の状態にある著名なもの及びそ
             の棲息地
           6.特に貴重な動物の標本
         <植物>
           1.名木、巨樹、老木、畸形木、栽培植物の原木、並木、社叢
           2.代表的原始林、稀有の森林植物相
           3.代表的高山植物帯、特殊岩石地植物群落
           4.代表的な原野植物群
           5.海岸及び沙地植物群落の代表的なもの
           6.泥炭形成植物の発生する地域の代表的なもの
           7.洞穴に自生する植物群落
           8.池泉、温泉、湖沼、河、海等の珍奇な水草類、藻類、蘚苔類、微生物等の生じる地域
           9.着生草木の著しく発生する岩石又は樹木
          10.著しい植物分布の限界地
          11.著しい栽培植物の自生地
          12.珍奇又は絶滅に瀕した植物の自生地
         <地質鉱物>
           1.岩石、鉱物及び化石の産出状態
           2.地層の整合及び不整合
           3.地層の褶曲及び衝上
           4.生物の働きによる地質現象
           5.地震断層など地塊運動に関する現象
           6.洞穴
           7.岩石の組織
           8.温泉並びにその沈殿物
           9.風化及び侵蝕に関する現象
          10.硫気孔及び火山活動によるもの
          11.氷雪霜の営力による現象
          12.特に重要な岩石、鉱物及び化石の標本
           
         「天然記念物一覧表」で見るように、実際に指定されている天然記念物は、「植物」が大部分を占
        めています。