農地にぽっかり威容を誇る
寄木のイチョウ
 晩秋の街を、黄色に彩る街路樹のイチョウ。美しく、例えようの
ない趣があります。樹勢は強くて、生長も良く、病害虫にも強く、
樹形は美しく、しかも長命という優れた特性をもち、全国の街路
樹の樹種としては、ナンバーワンの位置を占めています。
 全国各地の神社・寺院の境内や、庭園などにも多く植栽され
ており、巨木となって天然記念物に指定されているものが多くあ
ります。岩手県内においては、国が指定する天然記念物のイチョ
ウが2件あり、市町村が指定するものは、ざっと数えて26件ありま
す。
 時間をかけてそれらを訪れてみたいと思いますが、今回は八幡
平市で見かけたイチョウを中心に紹介します。
      寄木のイチョウ   (八幡平市指定の天然記念物
 所在地 八幡平市松尾寄木第24地割97番地
         八幡平市には天然記念物に指定されている樹木が7件あって、いずれも町村合併前の松尾村が指定した
        ものです。指定されている樹木はイチョウ2件、スギ2件、サワラ3件で、そのほとんどが寄木地区に集中
        しています。所在地の地名・地番だけで探し当てるのは困難をきわめますが、訪れた八幡平市市役所で
        担当の方から懇切丁寧な現地地図を描いていただき、無事それらを訪ね当てることができました。対応い
        ただいた受付の方、そして地図を描いて下さった方に、良い日々が続きますよう願っています。
             イチョウは雌雄異株で、一般に古い雄株では枝が挙手したように上に伸びますが、
            雌株の方は水平に張る傾向があるようです。この木は雌株で、やはり横に広がって
            います。
根元には小さな祠が祭られています。地元の人たちの信仰の対象になっているのでしょう。
       イチョウは雌雄異株で、この木はメスの木。訪れたのはちょうど実がいっぱいの季節でした。
      どの枝にもまさに鈴生りに生っています。ところが植物学的にはこれは実ではなくて種子。
      木の下は一面にこれが落ちて、足の踏み場もありません。黄色くなった種皮の外層は多汁質
      で、踏むと独特の悪臭がします。これを土中に埋めて腐らせ、中の堅い種皮中層を露出した
      のがギンナンです。ギンナンは多量のデンプン、少量のタンパク質と油脂を含みます。茶碗蒸
      しでお馴染みです。
  
    イチョウの老木には幹や枝から、乳(ちち)と
   呼ばれる乳房状の突起(気根の一種)が見ら
   れることが多く、この木にもそれが現れてい
   ます。乳イチョウは出産・授乳の信仰対象と
   されていることがありますが、ここもそうかな。
         保存樹木 イチョウ
   内 容  樹齢320年 樹高20m 太さ7.60m
   指 定  松尾村第2号 昭和50年10月11日
   所在地  岩手郡松尾村寄木24-97
   所有者  藤根勲 氏
      平成9年9月  松尾村教育委員会
      中佐井の銀杏     所在地 八幡平市安代町中佐井 天照皇大神宮
            天然記念物には指定されていませんが、数ある八幡平市安代地区内のイチョウの中では
           最大のものとされています。これも雌株です。「シメさんの銀杏」(神明さんのイチョウ)と呼ば
           れて、地元の人たちに崇め親しまれています。推定樹齢400年、樹高36m、幹周り5.35m。
           写真は(社)岩手県緑化推進委員会主催の「ふるさとの巨木・名木観察会」に参加した時のも
           のです。人との比較で、木の太さがよく分かります。
       長泉寺の大イチョウ   (国指定の天然記念物)
  所在地 久慈市門前1-111
          久慈市門前の長泉寺のイチョウは樹齢1100年以上とされ、太さ日本一を誇り1931年(昭和6年)
         には国の天然記念物に指定されています。その後さらに太いイチョウが発見され首位の座を明
         け渡しましたが、高樹齢による痛みも激しく、主幹は折れて樹形を変えています。命あるものの
         宿命です。今は千本桂のように、ひこばえの幹が立ち並んでいます。
       実相寺のイチョウ     (国指定の天然記念物)
   所在地 一戸町大沢12-3
        一戸町の実相寺にあるイチョウは見たところ何の変哲もありませんが、全体が雄株でありがら、
         小枝のほんの一部だけが雌株で、銀杏を5房ほどつけるという珍木ということで、国の天然記念
         物に指定されています。
イチョウの珍木ということでは、宮古市宮町の宮古第一中学校グランド
         にある逆さイチョウも、その形もさることながら、葉の主脈に雌花をつけて結実するというオハツ
         キイチョウであることが判明しています。葉が2裂して片方が葉、片方が胚株となるもので、イチ
         ョウの祖型を探る意味でも興味ある現象です。そこもぜひ訪れ、その原型を見たいものです。
         イチョウがナンバーワン まちの緑・街路樹ベストテン
       国土交通省国土技術政策総合研究所が2007年に行った調査によると、全国の道路に
        沿って植えられている高木の街路樹は約667万本ということです。木の種類は500種を超
        えるほど多くありますが、上位の10種で全体の半分近く(47.5%)をしめています。本数は
        20年前に比べると1.8倍に増え、街路樹の整備が進んでいるのがわかります。

       そのベスト10は以下の通りです。

       1位 イチョウ  57万本 (街路樹はほとんど雄木が使われます。東京都、大阪府、神奈川
                         県ではそれぞれ都府県の木とされています。関東、近畿では最
                         も多い街路樹です。)

         2位 サクラ   49万本 (ヤマザクラやヤエザクラなど多く種類はありますが、一番の人気は
                         ソメイヨシノです。)
         3位 ケヤキ   48万本 (木陰を楽しむ木として人気があります。仙台市青葉通りのケヤキ
                         並木は有名。宮城、福島、埼玉の「県の木」になっています。)

         4位 ハナミズキ 33万本(北アメリカ原産。大正時代に東京都:当時は市がアメリカに贈った
                         サクラのお返しとして日本に入った樹種。春は白い花、秋は紅葉と
                           赤い実が楽しめます。)

         5位 トウカエデ 32万本 (中国原産で、「唐楓」と書き、紅葉が美しい。カエデ・モミジの葉は
                         5つにさけたものが多いが、トウカエデは3つにさけています。サン
                         カクカエデともいわれます。
)
       6位 クスノキ  27万本 (街路樹の上位では唯一の常緑樹。葉に厚みがあり、よく茂るので
                         防音効果があるとされています。兵庫、佐賀、熊本、鹿児島の
                         「県の木」になっています。)

         7位 モミジバフウ 20万本(アメリカ大陸原産で日本には大正時代に入っています。葉の形が
                         モミジに似ていて、紅葉が美しい樹種。四国では最も多い街路樹
                         です。)
         8位 ナナカマド  20万本 (紅葉が鮮やかで赤い実をつけます。非常にかたく、木炭の一種
                         備長炭の材料になります。北海道では最も多い街路樹です。)
         9位 プラタナス  16万本 (世界で見られる街路樹の一つ。1987年の調査では3位でしたが、
                         生長が早い分手間がかかり、敬遠され気味です。)

         10位 カエデ   15万本 (植物分類上はモミジと同じ。日本で最も多く見られるのはイロハ
                         モミジです。カエデは山梨、モミジは滋賀と広島の「県の木」になっ
                         ています。)

                 資料出所は 「月刊 Newsがわかる 2010.6月号」(毎日新聞社)
                  イチョウの豆知識(補足)

         イチョウはソテツとともに古生代に発現した古い木で、恐竜が栄えたジュラ紀に隆盛期だったといいま
          す。まさに生きた化石のような存在です。現存のものは中国原産で、浙江省にわずかに自生するだけと
          いわれています。植物分類学上は1科1属1種の特異な存在で、雌雄異株。種子からもひこばえからも、
          さらには枝の挿し木などによる繁殖が可能で、やはり古い木のカツラと似たようなところがあります。
           イチョウは中国名ヤーチャオ(鴨脚)にちなむとされ、イチョウの葉をアヒルの足にたとえたところがユー
          モラスです。
           イチョウの材によるまな板は弾力性があり、かつては台所に欠かせないものでした。またイチョウの材
          は彫刻材にも使われます。