世界の珍木
シダレカツラ
 盛岡市内では公園や社寺の境内に、また公共の施設や大学の構内など
に、シダレカツラが多く見られます。ところによっては街路樹が連なっていると
ころもあります。盛岡市が定める市の木はカツラですが、このシダレカツラで
あることは言うまでもありません。市民にとって馴染みの深い樹木で、多くの
人々に親しまれています。
 盛岡にいると、この木はどこにもあるように思いますが、実はシダレカツラは
世界に誇る珍木中の珍木です。カツラからして、学名にもjaponicumが使われ
ているように、1科1属の日本固有の落葉高木で、世界に稀な樹種なのです
が、シダレカツラはその日本にあって、岩手県地方に特有のカツラの変種な
のです。
 そのようなこともあって、盛岡市内にある3ヵ所のシダレカツラは国の天然
記念物に指定されています。今日随所で見かけるシダレカツラは、それら
天然記念物のシダレカツラがルーツになっています。
 ぜひ一度見ておきたいものです。
シダレカツラ      (国指定の天然記念物)
 所在地 盛岡市大ヶ生22-99 瀧源寺境内
             若葉の芽生えが美しいシダレカツラ
            国指定天然記念物
           1.名称 シダレカツラ
           2.所在地 盛岡市大ヶ生22地割99番地
           3.指定年月日  大正13年11月9日
           4.説明 
               当山曹洞宗早池峰山瀧源寺は天正2年(1574年)性翁慶守大和尚の開山にかかる。
              このシダレカツラの原木は稗貫郡大迫町内川目の山中で発見され、岳の早池峰神社
              在所の妙泉寺境内に移植された後、慶守大和尚がこの地に移し変えたものという。元来、
              カツラの木は、直立型の枝を生じるが、このシダレカツラはいずれもしだれており、学術
              上珍奇な変種とみなされている。文政7年(1824年)本堂修築の際、樹高30m余の巨木に
              育ったこのカツラを伐り、寺の用材として用いたが、その時の用材として使った3尺幅の
              板戸が今も残っている。現存するシダレカツラは、樹齢約170年、高さ21m、目通幹囲が
              約3.5mに達している。
               本市内には、この木から株分けされたシダレカツラが門(関口氏宅)と肴町(中島医院)
              にあり、これら2本のシダレカツラも国の天然記念物として同時に指定を受けた。
               なお、シダレカツラの増殖は当初容易ではなかったものの、本市内の阿部善吉翁の
              永年苦心された研究によってツギ木による大量増殖が可能となり、現在は市内はもと
              より県内外各地でみられるようになった。
          5.所有者  盛岡市大ヶ生22地割99番地 瀧源寺
                                         平成6年3月
                                       盛岡市教育委員会        
                若葉が茂って快活な表情のシダレカツラ 
              無表情の冬のシダレカツラ
門(かど)のシダレザクラ    (国指定の天然記念物)
  所在地 盛岡市門字真立107
                   ちょうどサクラの季節。こちらはにぎやかです。
肴町のシダレカツラ    (国指定の天然記念物)
   所在地 盛岡市肴町12-6
                      こちらの方はいまは駐車場にポツンと立っています。
                    「カツラ」についての豆知識

       カツラはカツラ科カツラ属の日本固有の落葉高木で、北海道から九州まで分布し、北の方に
        多いようです。山の渓流や沢沿いの湿った肥沃なところに、サワグルミ、トチノキ、ホオノキなど
        と一緒に渓畔林の森を構成します。雌雄異株で、萌芽力が旺盛で無数のひこばえを出し、主幹
        が朽ちてもそのひこばえで命をつなぐ長命な樹木です。株立ち状で多幹となる性質があり、カツ
        ラの巨木は必ずしも太い主幹をもっているわけではありません。原始的で生命力に溢れ、推定
        樹齢千年を超える老木も残っています。
         シダレカツラは瀧源寺の案内板で解説されているように、早池峰山域で見つけたものを岳の妙
        泉寺境内に移植したものが最初のものとされています。元々の原木となったその木は、明治20年
        ごろまでは2,3株に分かれた大木で存在していたといいますが、残念ながらその後伐採されて今
        はありません。
         ところが、大ヶ生の瀧源寺を開いた当時の住職が、そのひこばえを瀧源寺境内に移植していた
        のでした。その移植された原木も大木となって伐られてしまいましたが、幸いにもその根元のひこ
        ばえが成長し、今日見るような姿に生育したのでした。カツラという樹木の生命力溢れる特徴がよ
        く現れています。
         明治のはじめ、瀧源寺2代目のシダレカツラのひこばえから得られた数本の苗木が、当時の実
        業家によって盛岡市内に植えられていますが、「門のシダレカツラ」と「肴町のシダレカツラ」はそ
        の一部です。シダレカツラの原木は雄株で、種子が付かないことに加えて、挿し木では発根せず、
        芽接ぎによる接ぎ木の技術が開発されるまでは、根際から出るひこばえを育て、それを親木から
        分離して苗木をつくらなければなりませんでした。現在は接ぎ木の技術によって、シダレカツラの
        苗木が容易に手に入るようになりましたが、接ぎ木以前のシダレカツラは、まさに貴重なものとい
        わなければなりません。 
         このように、現存する瀧源寺のシダレカツラこそが、今日見るすべてのシダレカツラのルーツと
        いうことになります。