美しい樹形を香ばしい花で飾る
七ツ田の弘法桜
 盛岡市の西側に隣接する雫石町は、旧藩時代盛岡城下から藩
境の国見峠を超えて秋田領に向かう街道筋として栄えたところで
す。雫石街道とよばれ(秋田街道ともよばれた)、雫石には藩境視
察のため江戸幕府から派遣された巡見使や良馬買い付けのため
派遣された馬買い衆などが宿泊し、にぎわいをみせていたといい
ます。豊かな自然と快適な生活環境を有し、近年は農業・観光を
中心としたまちづくりが進められています。
 その雫石町内に樹齢800年を超えると言われ、天然記念物にも
指定されているサクラがあるというので訪ねてみました。 快晴・
満開で迎えてくれました。
 雫石町にはその他にも、天然記念物にはなっていませんがサク
ラの名所があります。いずれも花の時期は残雪の岩手山を背景
に、春の息吹を告げるかのようです。
      七ツ田の弘法桜   (雫石町指定の天然記念物
 所在地 雫石町長山47地割松森
       このサクラは樹齢800年以上とされるエドヒガンの老木で、弘法大師にまつわる伝説が伝え
      られることから「弘法桜」の名がついています。樹勢は一時衰えましたが、懸命な保護措置に
      よって樹勢を取り返し、見事な樹形のもとで旺盛な花の姿を見せています。
 見る角度によって、その姿は玄妙に変化します。
花や枝などに香気があって、「匂い桜」とも言われているそうです。
花工房らら倶楽部農園のシバザクラ  所在地 雫石町長山47地割松森
      七ツ田の弘法桜のすぐ隣に、東北最大級の広さを誇る花苗、花木直売所の花工房らら
       倶楽部があります。販売所裏側は農園になっていて、サクラの時期にはシバザクラ園も
       歓迎してくれます。
(見頃はサクラの少し後
       小岩井農場の一本桜 所在地 雫石町丸谷地36-1 小岩井農場内
                 季節で変わるその表情
        残雪の岩手山を背景に、広大な草原にぽつんと佇む小岩井農場の一本桜。岩手県を舞台
       にしたNHKのテレビドラマ、「どんど晴れ」の冒頭画面に出て、満身花で装うその姿は全国の
       人々にも知られるようになりました。
        この桜の樹種はエドヒガンで、放牧している牛を夏の日差しから守る日影樹として、明治40
       年代に植えたと言われています。それから推定すると、樹齢100年といったところでしょうか。
        掲載した写真は2015年に撮ったものですが、この年は花芽を野鳥のウソに食害を受けると
       いウソみたいな話で、花はちょっと冴えません。
        花の時期には多くの人が写真撮りに集まりますが、四季折々にその表情を見せてくれます。
       緑に包まれたその姿も、観る人の心を癒してくれますが、雪化粧した岩手山をバックに、澄み
       切った空気の下で見せるその飾り気のない姿も、気品に満ちています。星空の下での撮影も
       人気があるようです。
  小岩井農場の並木桜 所在地 雫石町丸谷地36-1 小岩井農場内
      小岩井農場は明治24年、官有林野を払い下げて、わが国初の民間総合農場として創業されました。
      戦前は育馬事業に重きが置かれましたが、戦後農地改革の際に1千ヘクタールの解放と育馬事業中
      止が条件とされ、馬産の歴史は閉じられました。現在は約3千ヘクタールの面積を有し、農林畜産業
      を基軸にした経営が営まれています(酪農、種鶏、小岩井乳業工場など)。
       近年観光事業(宿泊、レストラン、遊園地など)に力が注がれ、その比率が高まっています。広大な
      草原と岩手山〜駒ヵ岳の連峰を背景に繰り広げられる景観は日本離れした雄大なもので、全国から
      観光客が訪れています。
       雫石川園地の桜並木   所在地 雫石町雫石川園地
       JR雫石駅の南側を流れる雫石川の河川敷には、ソメイヨシノが2列になって、約1.4kmに
        わたって植栽されています。数えてみると130余本に上ります。樹齢30〜40年位でしょうか、
        幹や枝は大分太くなって見応えのある景観を成し、今では雫石川園地のサクラとして、桜
        の名所にもなっています。堤防を下りて、見上げながら花のトンネルを通るのも趣がありま
        すが、目線でサクラを眺めながら堤防を散策するのも、他では味わえない趣があります。
         園内では夜桜を楽しむための照明装置を一部施したり、雫石川にワイヤーを渡して鯉の
        ぼりを泳がせたり、いろいろな楽しい取り組みもなされています。広々とした田園、河川敷向
        こうに、岩手山〜駒ヵ岳の連峰や和賀山塊の眺めも雄大で、素朴な環境の下で、自然と触
        れ合うことができる園地として、広く人々に知られ、愛され親しまれていくことでしょう。


      この雫石川園地のサクラについて、雫石町におたずねしたところ、親切なご回答を頂き
       次のようなことがわかりましたので、追記いたします。
        昭和56年の御所ダム完成に先駆けて、今から35年前の昭和55年の10月20日に植栽され
       ました。建設省・県・町で将来の「桜の名所」をめざして、ソメイヨシノ152本が植栽されま
       したが、今日そのほとんどが活着・生長し、今やご覧の通りの見事な桜並木となっています。
        植樹後しばらく手入れがなされていなかったのですが、雫石町で開催されたアルペンス
       キー世界選手権大会終了後の平成6年から、子どもの日を祝う「雫石川鯉のぼり」(平成28
       年度で23回目)の掲揚場所になったのをきっかけに、国・県・町による刈り払いや桜の剪定
       などの整備が行われてきています。
        「雫石川園地」と名付けられたのは、平成8〜9年の秋田新幹線開業に伴い雫石駅の新駅
       舎を建設する際、駅南開発の一つとして名付けられました。
     サクラの美しさをそのまま伝える、隠れた名所と言えるでしょう。やがて名所中の名所に?