良港のまちを彩る
大船渡のサクラ
 大船渡地方は冬でも晴れの日が多く、東北では珍しい暖かい
ところとされています。植物はよく育ち、ヤブツバキの自生がまと
まって見られるのは岩手県内ではこの地方のみです。東に広が
る海は寒流と暖流の接点で魚類も多く、古代人にとっても住みや
すい条件だったようです。多くの貝塚が集中して見つかっているこ
とはそれを物語っています。
 その気候穏やかな大船渡市で、天然記念物に指定されている
サクラが4ヵ所5本あり、花の時期を見計らって訪れてみました。
うち3本は「奥州しだれ桜」と称されるシダレザクラ(別名イト
ザクラ)で、エドヒガンの変種とされているものです。あとの2本は
ヒガンザクラの巨木で、一般によく見かけるソメイヨシノとはちが
った趣があります。
 市北部の中心地、盛町の山手にある天神山公園は街を見下ろ
す台地状の広場で、サクラの時期は花見でにぎわっています。
まだ樹齢の若いソメイヨシノが主体で、それらが貫禄を示す頃に
は絶好のサクラの名所となることでしょう。 
     (権現堂の)奥州しだれ桜  大船渡市指定の天然記念物
 所在地 大船渡市盛町権現堂吉野森神社
      大船渡市盛町権現堂の、市街地に入る手前の吉野森神社境内にあります。高台にあって、
       地元の人の話では樹齢は300年を超えると言われているそうです。
 「大船渡の文化財」(1991年版)では、
目通り周囲は3.4mとなっています。
傍らではツバキが満開です。
サクラとツバキの花期は同じなんですねえ
    (中井の)奥州しだれ桜    大船渡市指定の天然記念物
 所在地 大船渡市赤崎町中井 
       このサクラの開花は少し遅いようで、他のサクラが散る頃に満開を迎えています。
         目通り周囲3.3mとされる巨木です。
      (天神山公園の)紅ひがん桜   大船渡市指定の天然記念物
  所在地 大船渡市盛町柿ノ木沢
     市民公園として親しまれている天神山公園に登って行く途中の、2本のヒガンザクラに「天然記念物」
     の案内表示があり、それとわかります。目通り周囲3.5m、3.4mの巨木として貴重とされていますが、
     老衰して花は少なく、視界には周りの樹木の枝との交錯もあったりして、鑑賞にはちょっと難点があり
     ます。
    (長安寺の)奥州しだれ桜  大船渡市指定の天然記念物
 所在地 大船渡市日頃市町長安寺 
      寺の後ろの、墓地の上の方にあるこのシダレザクラ。近づいてよく見ると、相当に老衰が
      進んでいることがわかります。花が少ないのは、やはり歳には勝てないということでしょうか。
                寺の本堂裏に立派なシダレザクラが
       長安寺を訪れて、「あれが天然記念物かな」と思ったのが、本道裏に見えるこの立派な
       シダレザクラ。まだ咲き初めで、満開になったら見ものでしょう。片や本家と言うべき方は
       老衰して半ば無残な姿を晒していますが、天然記念物の跡取りにもなりそうな雄姿を見
       せるサクラです。
                 気仙匠の粋 山門、鼓堂、鐘楼
       大船渡といえば気仙。気仙といえば気仙大工の技。長安寺の山門は寺のシンボルに
        もなっていて、手の凝ったつくりはそれを具現化したものです。その前に立つと、荘厳さ
        に圧倒されるばかりです。
         この山門は1798年(寛政10年)に始まった工事といいますが、総ケヤキ造りで、禁制
         のケヤキを許可なく使用したことが仙台藩主の忌避にふれ、工事途中でストップがかか
         り、未完成の建物で、「袖なしの門」とも言われています。
          山門を入って左右にある鼓堂、鐘楼は、山門より前の1742年(寛保2年)に建立され
         たものです。これまた、いずれも気仙大工の技術の粋を集めてつくられたもので、まさ
         に一見に値する建造物です。