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岩手県内の山野にはシナノキは比較的多いようで、「シナノキ」と表示され
た大きな木もあちこちで目にすることがあります。岩泉町の早坂高原で見か
けた大きなシナノキもその一つで、天然記念物に指定されているだろうと思っ
ていましたがされていませんでした。どこか指定されているシナノキはないか
と調べてみると、釜石市が指定している「和山のシナノキ」がありました。
シナノキにちなんで思い出すことがあります。八幡平市の七時雨山に登る
際に目にした光景です。麓に広がる牧野に家畜に日陰を与えるように大きな
木がポツンポツント立っているのが非常に印象的でした。それらの木はシナ
ノキであることを山荘の人から教わりました。また七時雨山の麓や安代地区
には昔の街道筋に、道行く人々の道標になったと思われるシナノキの並木が
残っていることも教わりました。
それらも訪れてみましたので、合わせてその写真を掲載いたします。
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釜石市指定の天然記念物
所在地 釜石市橋野町(通称・和山長鼻) |
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所在地表示は「釜石市橋野町」だけで、地図を見ても山中と思われ、探し当て
るのは大変だろうとの予感がしました。そこで出かける前にいろいろ調べました
が、釜石側からではなくて、遠野側から貞任高原の風力発電機がたくさん並ぶ
稜線を越える道を選んだ方がいいという貴重な情報が得られました。おかげで
無事探し当てることができました。 |
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進んで行くと作業道路のような分かれ道があり、「和山のシナノキ入口」と表示がありました。
その道に入って程なくしたところに山道のような入り口にやはり「和山のシナノキ入口」の標識
があり、所在地がわかりました。初めて訪れる者にとってこうした標識による案内は非常にあり
がたいものです。 |
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天然記念物に指定されて以降50年程の年月が経過しており、指定当時とは姿が
変わっているのかもしれませんが、思いの外小ぶりに見えます。長年の風雪に耐
えてきた姿そのものです。 |
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所在地 岩泉町釜津田 |
盛岡と太平洋沿岸の小本を結ぶ小本街道。その難所でもあった早坂高原の峠越え。現在は早坂
トンネルができてあっという間に通り過ぎてしまいますが、かつては峠のレストハウス前の大き
な駐車場で一服したものでした。その駐車場から北方に見える上明神山に向かう途中で目にし
たのが「早坂高原のシナノキ」です。実に堂々として見る者を圧倒します。これまで目にした岩
手県内のシナノキの中では最大のもので、これぞ県下最大のシナノキではないでしょうか。
(写真は2007年6月撮影のものです) |
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所在地 八幡平市古屋敷地内 |
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七時雨山に登る途中の牧野で目にしたポツポツと立っている大きな木。それはシナノキ
と教えられました。見渡すとその数は結構あるようです。家畜に日陰を与えるために伐採
しないで残したのでしょうか。風景が立体的となって牧歌的で実にいい眺めです。 |
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登って行くと大きな木に出会いました。おそらくこの辺ではナンバーワンの巨木でしょう。 |
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近づいて枝先をよく見ると蕾の状態で、シナノキの特徴でもある柄が長い総苞葉が出ています。
シナノキであることはまちがいないようです。 |
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芽吹きの姿も見たくなって出かけてきました(5月中旬)。全くちがった表情を見せてくれました。
幹が直立し多く分岐している様子がよくわかります。 |
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所在地 八幡平市高畑地内 |
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盛岡を基点としたかつての「鹿角街道」は、盛岡城下から滝沢、寺田、七時雨山西麓、
荒屋新町、田山などを経て鹿角の湯瀬、花輪方面に下るルートでした。この街道は尾
去沢銅山が藩営化されると尾去沢〜盛岡〜北上川舟運〜石巻〜太平洋を経て大阪
の銅座に送る、大阪廻銅に欠かせない道にもなっていました。その街道の難所といわ
れた七時雨の山すそにかつてのシナノキの並木道が見られるというので訪ねてみまし
た。シナノキは大木になることから雪深い山道を歩く人の道標としたようです。他の街
道では見られない光景です。
シナノキは西根側では「マンダ」、安代側では「マダ」と呼ばれているようです。
訪ねたところは安代寄りのところで「マダの並木道」と案内されています。 |
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道の外れで見事なシナノキの大木も目にすることができました。 |
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シナノキの豆知識
シナノキは日本固有の落葉高木で、北海道から九州まで分布しますが北方系の樹種で、
寒い地方に多く分布しています。似たような樹種でシナノキより葉の大きいオオバボダイ
ジュもありますがその分布は北海道、本州(東北地方、関東地方北部、北陸地方)に限
られています。
同じくシナノキ科に属するボダイジュ(菩提樹)は中国原産で、日本へは臨済宗の開祖
栄西が中国から持ち帰ったと伝えられています。各地の仏教寺院によく植えられています。
釈迦がその下で悟りを開いたという有名な木はこのボダイジュではなくて、クワ科のインド
ボダイジュのことです。中国では熱帯産のインドボダイジュが生育に適さないため、葉の似
ているシナノキ科ボダイジュを「菩提樹」にしたといわれています。
シナノキは幹は直立しよく分岐するのが特徴です。また花序の軸についた舌状の総苞が
特徴で、落果時に風を受けてより遠くへ種を運ぶ役割を果たしています。
「シナ」は「結ぶ、しばる」という意味のアイヌ語で、本種の樹皮の繊維は強く、綱や
布として重宝されたことからきているようです。また材は建築材、器具、材パルプ材など
に用いられています。またシナノキからとれる蜂蜜は高級品として珍重されています。
リンデンバウム(独:Lindenbaum )と呼ばれヨーロッパで人気のあるセイヨウシナ
ノキは、向こうでは主要造園木の一つとされて大きな公園や街路樹などでよく植えられ
ているといいますが、日本でシナノキはそのような扱いは受けていません。これはシナ
ノキは寒い地方に多いこともあって、照葉樹林帯に文化の中心をもつ日本では造園木と
しては注目されなかったという説もあります。
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