その太さに圧倒される
森のトチの木
 盛岡市の中心部、岩手県庁のある内丸通り両側には、トチノキの
街路樹が続いています。太さも増してきて、風格も出てきました。
初夏には樹冠いっぱいに白い花をつけ、夏は大きな葉で木陰をつく
り、秋には多くの実を落とし、美しい黄葉を見せて、多くの市民に
親しまれています。
 トチノキは湿潤で肥沃な山地を好む樹種ですが、人工物の間の
過酷な環境のなかで、街路樹の役割を果たすその姿は健気で、
頼もしくも感じます。
 調べてみますと、岩手県内では4件のトチノキが天然記念物に指
定されています。その中で矢巾町にある「森のトチの木」は、太さ
では東北一ということで、その威容を誇っています。 
    森のトチの木     (矢巾町指定の天然記念物
 所在地 矢巾町大字白沢6-28
         矢巾町教育委員会発行の資料(平成13年発行)によると、根元周りは9.08mもあり、
        樹高は約31mあるということです。推定年齢は平成3年当時で約390年ということで
        すから、平成25年の現在では軽く400年は超えているだろうと思われます。太さでは
        東北一の巨木とされています。
             名称から森の中にあると思っておりましたが、田園の中にありました。
            隣りに大きな蔵があり、周囲には樹木も多く、森状になっています。
            樹勢は旺盛のようです
樹冠いっぱいに咲く白い花が見事です。
           秋に訪れた時は木の下にトチ実がいっぱい落ちていました。大きな木になると
          1本から二斗(36リットル)の実が収穫できるそうですが、この木はもっと多いで
          しょうね。カヤの木と同じように、かつてはこの木も、飢饉対策とし
て重宝された
          と思われます。 
       大木稲荷のトチノキ      (遠野市指定の天然記念物
   所在地 遠野市土淵大杉
       遠野市土淵の伝承園近くの田園真っ只中に、大きなトチノキを擁した「大木稲荷」があります。
       遠野市博物館発行の資料にも出ておりますが、凶作・飢饉の常襲地帯のこの地において、保存
       食を確保するために植えられたものとみられます。トチノキはもともと水分を好む樹木ですが、周
       囲が水田という環境がぴったりなのかもしれません。     
    近づいてみると2株に分かれているのがわか
   ります。根元周りは7.42mということです。
   樹齢は300年と推定されています。
    葉は普通は7片に分けれていることから
   七葉樹ともいわれていますが、実際は5〜9
   片で、中央の小葉が最も大きい葉になって
   います。
             かつては貴重な保存食として大切にされてきたトチの実。
            今は誰に見向きもされず、ただこのように朽ち果てていき
            ます。
             食料の大部分を外国に頼る日本社会。もしそれが来なく
            なったら……。その時どうするのと語りかけているようです。
   毒沢の栃の木 (花巻市指定の天然記念物)
   所在地 花巻市東和町毒沢
         地元の方々の心温まるご案内をいただいて、無事現地に辿り着くことができました。
        そのご案内がなければ、この取材は実現しませんでした。この場を借りて、あらため
        て感謝申し上げます。
        このトチの巨木は、ゴツゴツした岩場の山の斜面にあることなどから、自生したものと
       思われます。推定樹齢は430年余と表示されており、凄みを感じます。里にある巨木と
       ちがって、山に自生するこのようなトチの巨木は、幽玄な雰囲気が漂っています。
       側にある祠が、この木を神木として崇めてきた地元の人たちの気持ちを象徴しています。
       この木もまた、かつて飢饉の時など、大いに役立ったことでしょう。

       東和町観光協会発行資料(2000年10月発行)によると、目通り幹周りは約5m、樹高は
       約30mとなっています。
       (藤沢町大籠の)トチノキ   (一関市指定の天然記念物)
   所在地 一関市藤沢町大籠青松4
                       (取材次第掲載の予定)
  新・日本街路樹100景に選ばれている            岩手県庁前のトチノキ並木   所在地 盛岡市内丸
        新・日本街路樹100景は、読売新聞社が創刊120年を記念し、1994年に選定した全国で
       街路樹の景色に優れたとされる場所100ヵ所です。盛岡市内丸の県庁前のトチノキ並木は、
       その1つとして選ばれています。全国でトチノキの並木として選ばれているところは、この他
       に、栃木県宇都宮市の県庁前のトチノキ並木があります。
        ちなみに岩手県内では県庁前のトチノキ並木の他に、中尊寺・月見坂の杉並木と盛岡市
       鍋屋敷の松並木が選ばれています。ただし鍋屋敷の松並木は道路拡幅工事に伴い手が
       加えられ、かつての趣深い情緒は薄れてしまいました。
             
          円錐形のこの花序は、上部は実の生らない雄花で、下部が実が生る両性花です。
  トチノキの仲間                               ベニバナトチノキ   盛岡市若園町内で撮影
          世界のトチノキの仲間
           トチノキの仲間は日本を含めて世界に12種あり、北半球に分布しています。
             代表的なものとして次の3種があります。
               ○アカバナトチノキ
                 別名アメリカアカバナトチノキ。アメリカ南部原産で、あまり大きくならない
                 落葉小高木。枝先に円錐花序を直立し、濃い赤い花を多数つけます。
               ○セイヨウトチノキ
                 別名マロニエ、ウマグリ。ギリシャ北部〜小アジア原産。日本のトチノキに
                 よく似た落葉高木。花は白色ですが少し赤味がさしています。ヨーロッパや
                 北アメリカで街路樹として広く植えられています。パリのマロニエ街路樹は
                 有名。
               ○ベニバナトチノキ
                 上の写真のように、枝先に円錐花序を直立し、淡いピンク〜朱紅色の花を
                 いっぱいつけます。アカバナトチノキとセイヨウトチノキの種間雑種です。
                 落葉高木で、高さ10〜15mになります。
               「トチノキ」についての豆知識

       トチノキは北海道(札幌以南)、本州、四国、九州に分布し、特に雪の多い東北、北陸
       地方ではなじみが深く、九州では少ないようです。山地の沢沿いの肥沃な土地に多く生
       え、サワグルミ、ハンノキ、カツラなどと渓畔林を形成します。大きいのでは樹高30m、
       直径2mほどの大木となり、葉は大きく、何かと大づくりで目鼻立ちのはっきりした存在感
       のある樹木です。山地で見かけるその巨木は、ブナとはちがった、森の精でも出てきそう
       な薄暗い幽玄な雰囲気を醸し出しています。
        山地の渓谷林を代表するトチノキですが、植栽樹として、公園樹、街路樹、緑化樹など
       に多く利用されています。花はミツバチの蜜源となります。樹冠いっぱいに直立して咲
       く大きな円錐形の花序は壮観です。
        秋には直径3〜 5cmもある果実がいっぱい実り、熟して3つに裂けて、出てくる1〜2個
       の種子がいわゆるトチの実です。トチの実はクリとともに、古い時代から利用されてきま
       した。サポニンやタンニンを含んでいるため苦味が強いのですが、同時にデンプンも含ん
       でいるので、十分にあくを抜けば、食べることができます。丹念にあく抜きをして、米と一
       緒についたトチ餅は、かつては飢饉の備えとしてつくられた山村の救荒食糧品でもあり
       ました。
        材は木目が美しく、光沢があり、特に大径の板材は波状の木理が美しく、加工もしやす
       いので、建築材、家具材、装飾材として珍重されています。またバイオリンの裏甲板など
       にも使われています。